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その週末の誕生日、学食で島原についた噓が本物になる。
普通なら友達と飲みに行こうと言う話が来たり、彼女のいる人ならデートの約束なんかでウキウキした気分になれる日のはずが・・
僕は父の運転する車の助手席にいた。
昨夜、仕事から帰宅した父は予定が早まったと言うと早朝の出発を告げた。
何の準備もしていないと文句を言う僕に、必要なものは向こうで揃えてあると言うと自室へ入った。
そして今朝、まだ夜の明けきらない内に車に乗せられたのだ。
「けっこう遠いんだね」
僕がそう呟くと父はそうだなと返す。
都心のマンションを出て都市高速を降りてからもう3時間は過ぎている。
辺りは鬱蒼とした樹木に囲まれ、辛うじて舗装された道の周りは緑一色に見えた。
「この辺で飯にするか」
父の一言で通りにあったドライブインに入る。
父は適当に定食を二人前頼むと少し難しい顔で僕を見る。
「龍樹、お前民話の『たつのこ太郎』を知っているか?」
唐突に父が聞いた。
「たつの子太郎?
子供の頃テレビで見たやつかな?
日本の昔ばなしで、たしか家族の分まで魚を食べた妊婦の女の人が龍になって、その子供が『龍の子太郎』だったよね」
「まあ粗方はそうだな・・
お前その話をどう思う?」
僕は父の質問の意図が解らない。
「どうって・・
強いて言うならよくある昔話し・・かな。
だいたいストーリーも全文覚えている訳じゃないし、子供の頃に見たテレビ番組だろ、どう思うなんて急に言われても答えに困るよ」
僕の返答に父は席を僕の隣に替えた。
「父さん?」
父は驚く僕の顔に躊躇いながら話し出す。
「村に入る前に話しておく事がある・・
此れから話す事は僕やお前のルーツに関わる話だ。
真面目に話すからお前も真面目に聞いてほしい」
父はそう言って僕の肩を強く掴んだ。
「父さん痛いよ、分かったから、真面目に聞くから手を離して」
僕の声に父はハッとして手を離した。
「すまない・・
痛かったろう、悪かった・・」
父はそう言うと僕から目を反らす。
そのままで静かに話し出した。
「先ず・・
そうだな・・
龍樹、お前俺達の村には普段住人が居ない事を知っているか?」
「えっ?住人が居ない?」
「ん・・
やっぱり何も覚えてはいなかったのか・・
そうだ、村に人がいるのは何かの儀式の時だけだ。
例えば結婚式や葬式、そして幼児の節句とその子供の成人の儀式」
「葬式・・子供の節句・・」
「そうだ、お前が前に村に行った時は偶々親戚の葬式に重なりはしたが、本来はお前の為の集まりだったのだ・・
お前、その時に長老から何か話を聞かなかったか?
何でも良い覚えている事はないか?」
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