成人の儀式

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「信じられないよ・・ だって僕一度も龍の姿に変わったなんて事無いし・・ 偽体なら本来の姿に戻る事位あるはずだ」 そう反論する。 「それは封印をしてあるからだ。」 「封印?」 「そうだ、人間の姿から龍の姿に戻る事が出来ないように子供が生まれると直ぐに封印をするんだ」 「じゃ何の問題も無いじゃないか、龍の姿にならなければそのまま人間として生きれば良い」 「そうはいかない・・ 龍は本来人間の何倍も長く生きる。 成長は早いが老化は遅い。 人間とは生きる時間が違うのだ」 「じゃ僕が生まれた頃に村ごと移住したのも・・」 父は黙って頷いた。 「龍樹、実は成人の儀式と言うのはその封印を解く儀式なのだ」 僕は改めて父の顔を見る。 「それが解けたら、龍の姿に戻るの?」 「そうだな・・ 戻れると言う方が正しい・・かな・・」 「それって戻れない事もあるって事?」 「いや、戻れないじゃなく戻らない事を選べるだけだ」 「選べる? でもさっき僕がそのまま人間として生きればって言った時父さんは無理だと・・」 「嫌・・だが龍に戻るとひとつ所には居られないだけだ。 例えば僕のように転勤を名目に転々と住居を替え人目を避けて生きる事は出来る。 但し、お前は違う」 「僕は何が違うのさ?」 「お前は一族にとって大切な跡継ぎなのだ。 龍樹、良く聞いて・・ 実はな、僕はお前の本当の父親じゃないんだ」 「いやいや待ってよ、父さんが本当の父さんじゃ無いなら本当の父さんは何処にいるのさ?」 「兎に角、村に戻ってから詳しい話を・・ 今は他の人の目もある。 それにいきなりではお前もショックが大きいだろうから、村に帰る前に話しておこうと思ってな」 父はそう言うと向かいの席に戻ってため息を吐いた。 余りの事に二の句がつげない。 暫くすると年配の女性が二人分の定食をテーブルに置いた。 「話は済んだみたいね・・ 村長には電話を入れておくわ」 そう言うと僕の顔を覗きながら微笑んだ。 「この人はお前のお母さんの妹でな・・ 此れからは僕に代わってお前の面倒をみてくれる」 定食に箸を運びながらさらりとそう言う父に僕は驚いて女性を見る。 父に目線を戻しながら慌てて聞き返した。 「父さんに代わってって、父さんは何処かに行くのか?」 父は顔を上げずに箸を進める。 「僕はお前の儀式の介添え役を終えたらこの国を去る」 「去るって・・」 「兎に角料理が冷めないうちに召し上がれ、儀式が始まると暫くは食事も出来ないだろうから」 僕は何が何なのか解らずにボーッとしながら食事を喉に押し込んだ。 聞きたい事は山ほど有る、だが僕の質問に父も叔母だ言う女性も答えないだろうと思えた。
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