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三ヶ月ぶりに自分の部屋で目覚めた。
起き上がりドアを開けてリビングから父の部屋を覗く。
本好きの父の部屋には壁一杯の本棚が置かれ、そのぼぼ全ての棚は父が愛読した書籍が整然と並べられていた。
大きめの窓を背に年代物のデスクが置かれ、お気に入りだった皮の肘掛け椅子が少し斜めに設えてある。
照明の灯りより自然光での読書を好んだ父のこだわりだった。
「龍ちゃんご飯よ」
父に代わって僕の身の回りの世話をと同居を始めた叔母が声をかける。
「ああ、直ぐに・・」
そう答えてドアを閉めた。
「要さん、今ごろは何処の国かしらね・・」
トーストとコーヒーを僕の前に置きながら叔母が呟くように言った。
「そうですね・・」
僕はやっと其だけを答えるとコーヒーに口を付ける。
その間に手早くサラダやヨークルト、デザートの果物を並べ終ると叔母もテーブルに着いた。
「龍ちゃん今日から大学に戻るの?」
「はい、折角入った学校ですから・・」
そう答えて時計を見る。
「随分と休んだし、今日は早めに出ます」
そう言ってコーヒーカップを置いた。
あの日、村に戻った僕は荷をほどく暇も無く儀式の場へと誘われた。
その場には僕の他に三人の新成人が先に来ていた。
皆等しく白装束に藁の履き物、直ぐ後ろには其々の介添人を連れていた。
僕が所定の場に立つと村長が皆を見周す。
「此より成人の儀を執り行う。
各自、介添人の指示に従い速やかに己が卵を飲み込むのじゃ」
村長の言葉に新成人4人が驚いて顔を見合わせる。
「卵?」
其々の介添人が鳥の卵よりは少し大きめの卵を新成人達の前に差し出す。
「龍樹、出来るだけ大きく口を開けろ」
そう言って殻ごと僕のくちに押し込んだ。
吐き気をこらえやっとの事で飲み込もうとしたが、息が出来ない。
苦し紛れに父にしがみ着く僕の口に熱く生臭い液体が流れ込んだ。
その途端卵はスルリと僕の喉を通り胃の中に収まる。
息を凝らして開けた僕の目に、血だらけの左手をぶらりと提げた父の姿が飛び込んで来た。
「父さん!」
そう叫んだ時、身体中に激痛が走る。
余りの苦痛に倒れ込んだ僕の身体を血だらけの父が抱き留めた。
「龍樹、少しの我慢だ!
この先、何が有っても膝を折ってはダメだ」
そう言うと僕の背中から体を支えた。
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