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クリームソーダ
春の晴れた陽気な天気の下、私は田舎道を自転車でサイクリングしていた。頬を撫でるふくよかな風が気持ち良い。
ある程度自転車を走らせたところで、小さな喫茶店を見つけた。そこは、ぽつんと1軒だけ佇み、昔からやってますよという雰囲気を醸し出している。まるで時間の流れに置いていかれたようだ。
興味を持った私は休憩がてら丁度良いと喫茶店に入ってみることにした。喫茶店の横には車が3台ほど停められる小さな駐車場があったが、駐輪場は無かったので、駐車場の端の方に自転車を置いて喫茶店の中へと入っていった。
重厚な扉を開くと、ギィという動きの悪そうな音と、ベルの鳴るシャランという軽やかな音が耳を刺激した。
店内は薄暗く、昼間でも落ち着ける雰囲気だった。
「いらっしゃい」
カウンターの奥から店主であると思われる女性が挨拶をしてきた。女性は店の様相とは違い、まだ活気のありそうな30代ほどに見えた。
好きなところに座ってと促され、私は陽射しの差し込む窓辺に腰を下ろした。年季の入っている木製の机と椅子は小傷が多々あるものの、温もりと清潔感が感じられた。
「何飲む?」
女性店員が表紙がシンプルな黒いメニューを手渡してくる。それを受け取って、開いてメニューを眺める。メニュー表に写真は使用されておらず、筆で書いたであろう文字が縦に並んでいた。
私は幾許か悩み、メニューの左下に小さく書かれた『クリームソーダ体験できます』の文字を発見した。私はそこを指さして女性店員に尋ねた。
「これって今もやっているんですか」
女性店員はどれどれとメニューを覗き込むと、あぁ、それねと嬉しそうに首を何度か頷かせた。
「やってるよ。それにするの?」
私は少し悩んだが、結局それを注文することにした。クリームソーダ自体はカラオケ店などで作ったことがあるが、この店にはカラオケ店にあるようなドリンクバーが無い。どのようにクリームソーダを作るのか興味が湧いたのだ。
「オーケー。ちょっと待っててね」
女性店員は友達に話しかけるようなフランクさで注文を取ると、厨房へと消えていった。私は女性店員のフランクさがとても個人商店らしくて、この時点である程度満足感を覚えていた。
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