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厨房からは冷蔵庫や冷凍庫を開けたりしているバタンという音や氷を取り出しているであろうガシャガシャという賑やかな音が聞こえてくる。
客は私の他には居ないため店内は静かで、音がよく響き渡った。しかし、木造の店は音をキンキンと反射するのではなく、やんわりと角の取れた耳障りの良い音に変えていた。店内にBGMは流れていないが、この作業音がBGM代わりになっている。こういうのもなんかいいなと私は一人でムフフと笑った。
「おまたせー」
厨房から女性店員が木製のお盆を両手で支えて戻ってきた。私の席の隣に移動してくると、お盆の上に乗っていた物を次々に机の上に移す。
飲み物を注ぐための硝子のコップ。氷の入った黒い容器とトング。緑色の液体が輝く瓶と栓抜き。アイスクリームが詰まっている白い箱とアイスクリームディッシャー。
それらを並べ終えると、女性店員はお盆を隣の机に置き、私に向き直った。
「さて、始めましょうか」
まずは……と私に瓶の栓を開けろと促す。私は指示通り栓抜きを手に取って、瓶の蓋に栓抜きを引っ掛けてグイッと持ち上げたのだ。蓋はぐにゃっと曲がり、瓶から外れる。外れた蓋は机の上にコトンと落ちた。私は懐かしさを覚えた。最後にこんな風に蓋を開けたのはいつだったっけ。
瓶の口からはふわりと独特なメロンソーダの香りが昇っている。それにも何処か懐かしさを覚えた。家族とレストランで食事をしている時の記憶が蘇った。幼かった私がお子様ランチと一緒にメロンソーダを飲んでいた光景だ。
「次はっと……あ、ごめんね。先に氷をグラスに入れないといけないわね」
ごめんと、両手を胸の前で合わせて女性店員は頭を下げる。その陽気さが楽しくて、本当に友達と遊んでいるような錯覚に陥った。
私は栓抜きを置いてトングに持ち替えると、小さなパフェでも作れそうな硝子の容器に、荒削りの丸みを帯びた氷を移していった。一つ一つ丁寧に移していく。トングから氷を離す度にカラン、カランと小気味よい音が響いた。
グラスの八割程まで氷を入れたところで、それくらいねと止められた。グラスの中はたくさんの氷が不規則に詰められていて、まるで南極みたいだ。そこが南極ならば私はペンギンなのであろうか。
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