クリームソーダ

3/4
前へ
/4ページ
次へ
「うん、いいね。こうやって見ると宝石箱みたいじゃない?」  なるほど、そういう見方もあるのかと私はグラスをマジマジと見返す。確かに角度を変える度に輝きの変わる氷は宝石のように見えるかもしれない。いや、もしかしたらこれは冷やしたダイヤモンドなのかも。そうだとしたらこのグラス一杯で億万長者になれそうだ。 「それじゃ次はいよいよメロンソーダを注ぐ番ね」  私はこくりと頷き、先程栓を開けたおいた瓶を手に持つ。水滴の付いた瓶はひんやりとしていて、喉を通った時の快感が想像させられる。その緑色の液体をグラスにゆっくりと注いでいく。とくとくと瓶の中の液体が空気と入れ替わりで出てくる。グラスの中ではシュワシュワと泡が弾け、香りが更に広がる。氷が溶けて、積んであった形がカシャンと崩れる。メロンソーダは私の世界を溶かしながらグラスを満たしていく。私の南極が、ダイヤモンドがメロンソーダに溶けていく。  瓶の中身を全てグラスに注ぐとグラスの中に翠色の世界が生まれた。グラスを持ち上げて陽に翳すと、より透き通った世界が見られた。  女性店員が私の肩をトントンと叩くので振り向くと、女性店員はにこりと床を指さしていた。その指の先に視線を移すとそこにも翠色の世界があった。それは揺らめいて陽炎のような淡い存在だったが、二色しかない世界では確かな存在感がある。女性店員に向き直り、綺麗だねと一緒に笑った。 「さて、次はアイスクリームだ」  女性店員はそう言いながらアイスクリームの入っているタッパーの蓋を開けた。アイスクリームはクリーム色で所々にバニラビーンズの黒い点が見られた。女性店員はアイスクリームディッシャーを手に取ると、使い方の説明を始めた。そんなに難しい操作ではなかったが、初めて使用する道具だったので真剣に説明を聞いた。  ディッシャーの端をアイスクリームに埋めて、手前にゆっくりと引く。予想よりも固く、思うように動かすことが出来なかったがなんとか必要量を集めることが出来た。それをグラスの上に持っていき、ひっくり返してハンドルを握るとアイスクリームがメロンソーダの上に落ち、丸い島が生まれた。この島の名前は喫茶店の名前に因んで、黒猫島と呼ぶことにした。呼ぶことは無いだろうけど。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加