蓮上の家へ

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荷物も紫貴が殆ど先に運んでくれていて、後ろを歩きながら相変わらずだなぁと眺めた。長い手足、高い背、サラサラの黒髪、Vネックの半袖Tシャツに上着で長袖のチェック柄のシャツを前を開けたまま着て、細身の黒ジーンズなのに、ピンとした空気を纏っている。 車が出発してから、遠慮気味に紫貴に聞いた。 「ねぇ?眠れた?」 「眠れましたよ?蓮華は?」 「眠れた。不思議にぐっすりと……ごめんなさい。」 思わず謝ってしまうのは目が覚めてから三回目。 目が覚めた蓮華が見たものは、片足を紫貴の腰辺りに上げて、手を放さずに両手で握っている姿だった。 「そんなに寝相悪くないのよ?ほんとよ?」 「子供の頃以来、久し振りに誰かの手を握って眠りました。心臓の音が聴こえて温かくて安心するものですね。本当にぐっすり寝ていて、目が覚めたら目の前に蓮華がいて幸せな気分になりました。最高の目覚めでしたよ?」 「足を乗せられていて?」 申し訳なく目線を落として訊き返す。 「はい、蓮華の足なら、顔を踏まれても歓迎しますよ?」 和かな笑顔で即答された。 「………変態。」 赤い顔で下を向き、蓮華はボソリと呟いていた。 途中で休憩を取り、紫貴は腰を伸ばす為に運転席から降りる。 「トイレ休憩にしましょうか?ここから先は出来ればノンストップで。」 言われて頷き、隣に並んで歩き出す。 「紫貴、おにぎり後で食べよう?車の中で。時間的にも朝食でしょ?」 紫貴は腕時計を見て時間を確認して、そうですねと、答えた。 半袖のグレーのTシャツの上に、羽織っていたブルーと黄色と紫のチェックの長袖ブラウスの袖を引いたから、隠れていた腕時計が見えた。 自然に口元が綻んでしまう。 同時に泣きそうにもなる。 (何で今まで気付かなかったんだろう?) 「蓮華?行きますよ?」 先を行く紫貴の元に駆け寄る。 「先に終わった方が売店でお土産ね?小枝お祖母さんと皆さんに。」 「用意してたじゃないですか?」 「足りないよ。それにあれは地元名産品で、ここのとはまた違うし、三坊主はお菓子がいいでしょ?和菓子ならお寺のお客様にもお出し出来るし、困る事はないでしょう?多いに越した事はないわ。」 笑顔で言うと、なるほど、と納得しつつも、 「三坊主にはいらないですよ。最近、生意気ですからねぇ。おい、紫貴!呼び捨てですよ!」 くすくす笑いながらそれぞれに別方向に歩いた。 ここまでも紫貴は楽しい話をたくさん聞かせてくれていた。 松子お母さんがドジをした話、去年の夏の三坊主の法事お経デビュー。 紫貴の腕時計は蓮華が渡した物だった。 ずっと使ってくれていたのかなと思うと、嬉しくなった。 誰が見ても、元々、紫貴が使っていた腕時計の方が高級品だった。 壊れたらいけない日にでも着けてくれたらいいと思っていた。 それを外して、蓮華の渡した腕時計をしてくれている。 服の中のネックレスをぎゅっと握った。 何を聞いてもどんな話でも、絶対に紫貴の手を放さずにいようと思えた。
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