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9時過ぎには蓮上家のある街に着いた。
高速から下りてからの方が意外に長い。
蓮上家の駐車場に車が停まると、蓮華は助手席から降りて家を見上げた。
初めてここに来た時の様に、暫くぼーっと見ていた。
「三坊主はいませんよ?」
「日曜日ですよ?」
振り返り、荷物を出している紫貴に気付き手伝いに行く。
「今日は朝からいくつか仕事が入っていて、三坊主は最近、檀家さんに人気だとかでご指名が多いそうです。まぁ、これも修行の一つですからね。今から檀家さんと仲良くなり、可愛がって頂き、お経を人前で読む事に慣れるのもいいので嫌がらない限りは同行させていますよ。」
三坊主…副住職の宗大の息子達は3人共、小学生になっている。
「もう修行ですか。紫貴も?紫貴もしてたの?」
小さなお土産だけを渡されて持つと、両手に荷物の紫貴は歩きながら答えた。
「勿論。朝のお勤めは記憶にない二歳頃から並んで座ってましたよ?読めもしないお経を聞いた後で真似して、兄に笑われて、それを父が注意して。」
「へぇ〜。なんか、いいね?」
「そうですか?」
「うん!なんかいい!見たかったなぁ、小さい紫貴。」
笑顔を向けて言うと、玄関が開いて小枝お祖母さんが立っていた。
蓮華の中に緊張が走ると、笑顔を見せていた小枝お祖母さんの表情は徐々に崩れて行く。
泣き顔になり、ポロポロと泣き出し、杖を前に出してヨロヨロと歩き出した。
「蓮華…蓮華。」
探す様な仕草に蓮華は駆け出して手を繋いだ。
「小枝お祖母さん、ごめんなさい。心配かけてひどい事言ったよね?もう来ないなんて…ごめんなさい!!」
手を取り謝るとお祖母さんは首を振る。
「蓮華は何も悪くない。私が臆病で駄目なおばあちゃんだったんだよ。蓮華と紫貴が……年も離れているからお互いに想い合うとは考えてもいなかった。苦しかったね?辛かったね?ごめんね…蓮華。気付いてやれなくてごめんなさい。」
お祖母さんに言われて蓮華も泣きながら抱きしめた。
紫貴に促されて、お祖母さんの手を取り家の中に入った。
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