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車が集落の入口にかかっている看板を通り過ぎ、山道特有の急カーブを何度か登っていく。
2、3軒家が見え始めたころ、道路の右側に少し拓けた場所があった。
「ここは……」
ひまわりが咲き乱れる野原には見覚えがあった。
今でも鮮明に思い出せる。
8年前、俊ちゃんと一緒に遊んだ最後の場所―――。
ひまわり畑の横を通り過ぎた時、一瞬だけ人が見えた気がした。
もしかして。
そう思った時にはもう身体が勝手に動いていた。
「お父さん、止まって!」
キィッとタイヤの擦れる音がして車が急停車する。
「どうしたんだ?」
お父さんとお母さんが驚いた顔で振り返った。
「確認したいことが出来たからちょっと行ってくる。後でおばあちゃんの家に行くから先行ってて」
「美月!?」
お母さんの叫び声を無視して、日よけに持ってきた麦わら帽子を被って車から飛び出し、道路で他に車が来ていないか確認したうえでひまわり畑の方面に走る。
大学に入学してから染めた茶髪をポニーテールが走るたびに揺れる。
もしかして。もしかして。
ひまわりを無我夢中でかき分け、1つの希望に向かって進んだ。
進んでいくと、突然人影が見えた。
すぐには止まることが出来ず、走って来た勢いのまま前にひっくり返ってしまった。
「きゃっ」
「おわっ」
悲鳴が重なり、直後に尻もちをついた。
「痛い~…」
思い切り地面に叩きつけられたお尻がジンジンしている。
「いてて…」
横から呻くような声。
顔を上げるとそこには白いTシャツを着た20代くらいの男の人がいた。
まずい。
「私がいきなり出てきてたせいで驚かせてしまってごめんなさい!
ケガしていませんか?」
慌てて近くに行き、訊く。
ケガをさせてしまったていたらどうしよう。
「ケガはしていないよ」
私は顔を上げたその人を見てしばし呆然とした。
白い半袖Tシャツに、黒いジーンズというラフな格好。
髪の毛はさっぱりと短めではあるが、袖からのぞく首もとや腕は男性らしくたくましい。
そして、優しげな二重の瞳を覚えている…。
声はもちろん以前よりも低かったが、会いたかった"あの子"だと確信した。
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