8人が本棚に入れています
本棚に追加
コーヒー店は混み合っており、アイスコーヒーを2つ買い、その端っこのテーブルに身を寄せる。
「何で突然別れようって言い出したの?」
コーヒーに口をつけることなく、彼に顔を向ける。
「…美月は俺を男として見れてなかっただろ?」
彼はぽつりと呟いた。
意味を理解するのに数秒かかった。
私が口を開く前に彼がコーヒーのグラスを見つめながら呟く。
「美月は自分から手も繋がないし、キスもしない。……しかも8ヶ月も経つのにヤるの拒んでるだろ。もう頑張るの辛くてさ」
言いにくそうに俯きながら喋る彼を見つめる。
あぁ、私のせいか…。
「今日美月の方から手を繋いでくれたら付き合いを続けようって決めてたんだけど…繋がなかっただろ。
実は他にも気になっている子もいるしさ…」
振り絞るような彼を見て、胸の中に重りがあるみたいにずしりとした気持ちになった。
私のせいだ…。
プラットフォームにある4人掛けベンチの端に座り、その横にボストンバッグを置く。
腕も脚も痛い。
彼に綺麗と思われたくて履いてきた7センチヒールが憎い。
彼のマンションに泊まると思って持ってきたボストンバッグが憎い。
だけど、一番は彼の気持ちに早く気づかなかった自分が憎い。
ー3番線に列車がまいります。黄色の線の内側にお下がりくださいー
乗るべき電車が来ることを告げるアナウンスが流れる。
脚が痛くて立ち上がれない。
向かいのプラットフォームには先程まで一緒にいた”元カレ”が立っているのが見えた。
スマホを見ているせいか俯いていてこちらには気付かない。
「たかくん、ごめんなさい」
小さな声で呟いた瞬間、堪えていた涙が溢れてきた。
これが森 美月の、初めて出来た彼氏との別れだった。
最初のコメントを投稿しよう!