8人が本棚に入れています
本棚に追加
1台の黒い普通車が時速30キロの道を法定速度通りにゆったりと走っている。
見渡す限りの田んぼや畑が広がっている。
道幅は対向車が来たらすれ違うのが難しいくらい狭いが、
お昼すぎのためかここ30分は他の自動車と出会っていない。
「あとどのくらいでおばあちゃんの家に着きそう?」
助手席の母が運転席にいる父に訊ねる。
「そうだなぁ…、あと20分くらいかな?」
父はニコニコしながら答えているが、東京の自宅からここまで5時間以上もかかっている。実家に行くのが楽しみなのかもしれない。
(面倒くさいし遠いな・・・。)
私は窓から外の景色を眺めつつため息を吐いた。
車の中からは外に陽炎が見え、車から1歩でも出たらうだるような暑さなのだろうと想像でき、またもう1つため息が出る。
「美月、おばあちゃんの家に行くの楽しみね」
母がこちらに振り返りながらのんびりした口調で言う。
父も、こっちに来るのは美月が小学生の時以来初めてだよなーと懐かしそうにつぶやいた。
最初のコメントを投稿しよう!