ℱの音色

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そこにはふたの空いたフルートケースが横たわっていた。 頭部管と胴部管はきちんと収まっているのに、足部管のあるべき場所だけが、真っ黒な空洞になっている。 (そういうこと、だったんだ……) 私が吹いたフルートが遼の音色だったのは、遼が吹いていたからじゃない。 遼のフルートだったからでもない。 遼がフルートだったからなのだ──フルート自身が遼だったから。
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