ℱの音色
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曲の終わりのFのロングトーン。 繊細なヴィブラートが震わせた空気が、ディミヌエンドとともにとけてゆく。 リッププレートから唇を離すと、割れるような拍手が起こった。 これが、遼が見ていた世界、聴いていた世界なのだろう。 (じゃあこれは──私は、誰?) なんだか変な気分だった。 それでも私は慣例通り客席に一礼して、舞台袖へと退いた。
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