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もちろん覚えている。でも──。
「優勝したのは……遼だよ。『私』じゃない」
本選のあの演奏は、私のものではなかった。
今更悔しいとも思えないほどに違う。
あの音は、私の音じゃない。
《相変わらず、若菜は気まじめだね》
遼は少し寂しげに微笑んだ。
その表情に胸が締め付けられる。
《僕がいるんだ。僕なら若菜の音を変えられる。それに》
遼の手からフルートが姿を消した。
その手が私を受け入れようとするように、大きく広げられる。
《ずっと一緒にいられるよ》
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