ℱの音色

33/37
前へ
/37ページ
次へ
私ははっと声のした方を振り返った。 「遼……!」 私は自分の目を疑う。さ っきいなくなったはずの遼が、そこに立っていた。 私のよく知る、少し困ったような、でも同時に優しく見守るような表情だった。 『いい? 間違っちゃだめだ。ちゃんと生きて。若菜ちゃんだけは』 「……!」 そうだ。 遼は幼いころからずっと、私のことは「若菜ちゃん」と呼んでいた。 一度も呼び捨てにしたことなんてない。 どうして気付かなかったのだろう。 「助けて……くれたの……?」 かすれる声で問いかける。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加