ℱの音色

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遼は微笑むだけで答えない。 『銀には破魔の力があるんだよ。……このフルートは総銀だから』 私ははっと足部管を見下ろした。 ということは、これは遼のフルートなのか。 私はそっと足部管を拾い上げる。 タイルの上に落ちたからか、少し傷がついてしまっていた。 『若菜ちゃんの最初で最後の舞台に、一緒に立てて嬉しかったよ』 遼が穏やかな声で言う。 「えっ?」 それってどういう──? 尋ねようとしたけれど、遼は待ってはくれなかった。 静かな微笑みをたたえたまま、ふわりと霞のように姿を消してしまったのだ。 「遼……」 私は立ち上がり、遼が立っていた場所にふらふらと移動する。
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