ホーカー氏の失踪

『ロンドンのIT企業『スフィンクス』の創立者でCEOであるジェームズ・W・ホーカー氏が、現在行方不明である。脅迫状や遺書などはなく、警察は事件として捜査中。氏は失踪の前、イースト・ホークウッドに旧貴族の館、ブラッドベック邸を購入していた。(202X年4月26日付　タイムズ紙)』

＊＊＊

　この日記は、間違いなく失踪中のJ. W. ホーカー氏のものである。私はこれをブラッドベック邸の書斎で、彼が行方不明になった後に発見した。
　私は、かつてここホークウッドの領主であったブラッドベック旧伯爵家より、別邸の管理、売却を委託された不動産事業者である。
　その書斎にある隠し金庫の存在について、私とホーカー氏の間には、守秘の紳士協定があり、例え家族であっても明かすことができない。
　ホーカー氏が失踪してすでに1ヶ月以上経過している。仮に、不幸にも氏の死亡が確認されれば、この日記はリンダ夫人に帰属して然るべきである。しかし生存の可能性が否定できない現時点で、この日記は私が保管しなければならないだろう。

＊＊＊