TOPPO

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「ねぇ、どっちが好きなの?」  君は私の目の前に仁王立ちして問いかける。  三月半ば。春を思わせる温かな陽気が放課後の教室に差し込む。私たち二人だけの教室は静まり返って、けれど優しさに溢れていた。私は窓際の自席に脚を横に出して腰掛けていた。先日、一つ上の三年生が卒業したから、この学校で一番の上級生だ。けれど、そんな自覚も乏しく、私も、彼女も、この春の穏やかな陽気に半分浮かれていた。  彼女のへの字の口をした表情を、午後の光が優しく照らす。君は、そう、私の彼女の君は、162センチから怒った様子でかわいく私を見下ろす。先日美容院で切ったという艶やかなボブスタイルの髪を、私がかわいいねと褒めたら、君は、今と同じように口をへの字にして真っ赤になって照れた。    「ん……、未緒が好き」 「えっ……そっそういうことじゃないから、もう……」 「かわいい」  そう言って、彼女の小さくて白い手に触れると、ビクッと驚いていた。離れようとする手を、逃すまいと掴む。優しく手を取ったまま彼女の瞳を真っ直ぐに見つめると、恥ずかしがった君は、節目になって目をそらした。 「あおちゃんはかっこいいよ……」 「ありがと」掴んでいた手から伸びる白くて細い指に優しく口づけた。 「……」  されるがままに立ち尽くす君は、しばらくの間、そうやって恥ずかしさと嬉しさに溺れていた。  すると突然、あっ!と声を上げて、手を外した。 「違うよ!どっちが好きなの?トッポとポッキー!」 「えっ、あぁありがと、買ってきてくれたんだね」 「そうだよ!だってそういったじゃん」 「ごめん、そうね」 「私はトッポがすきだなぁ~」 「そう?なんで?」 「えーだって…………なんでだろ?……そういえば、このクッキーのとこの味が好き」  おもむろにトッポの袋を開けて一本口にくわえながら彼女はそう話した。 「私はポッキーが好きだなー」  そう言って私は、彼女が買ってきた赤い箱に手を伸ばした。君は、少しだけ不服そうに、そして悲しそうに、くわえていたトッポを口に押し込んだ。  仕方がない、そういうことだ。 「ねぇ未緒」 「んー?」 「やっぱり、トッポもらっていい?」 「えー!いいよっ!」  満面の笑みだ。嬉しさが滲み出ている。  手に持ったトッポの袋を私に差し出す。 「ねぇ、……やっぱり」  袋を持った君の手をぐいと引き寄せた。  よろめいた君の体が私の元へとやってくる。  柔らかで温かい君の頬にキスをして、そして耳元でささやいた。 「未緒がいいな」
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