9 怪物ランド

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彼女の両肩をそっと抱きしめた彼は耳元にささやいた。 「ねえ、じっとして」 「え?」 彼の優しい声に沙也加はドキとした。 「な、何ですか」 「あそこにね……大きな蝶がいるんだ……」 これにがっかりした彼女だったがどこか笑えてきた。 ……そうだよね。告白かと思ってびっくりした。 「……フフ。どうしますか」 「それを今考えているんだよ……」 子供のような彼に沙也加はクスと笑った。 「先生。私の帽子を使って。そっと行って」 「オッケー……」 こうして蝶を捕らえた彼は嬉しそうに笑っていた。先までプンプンしていた彼は今は満面の笑みだった。 ……やっぱり生き物が好きなんだな…… やった!やったと喜ぶ彼を見ながら沙也加の胸は痛んでいた。 ……先生は好きなのは生き物で私じゃないんだもの。 「先生。帰りましょう」 「ああ。ねえ、写真だけ撮って!」 「はい」 彼への思いを封じた沙也加は笑顔を作って写真を撮った。 そんな彼女の気持ちを知っているかのように風は優しく吹いているのだった。 つづく <2020・4・7>
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