budou-04

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

budou-04

「樹、どうした? またティスに何か言われたのかい?」  声が、した。低いというわけではない、やわらかな、若い男の声だ。それが鼓膜を震わせるものではなく、脳のどこかから湧き出してきたものだと気づくのに、さほどの時間はかからなかった。風を切る音に耳が痛いくらいなのだから、例え傍で話しかけられたところで聞き取れるわけがない。 「教えてくれないのかい? 頑固だなぁ」  声は苦笑を孕む。 「アリスには言わないで」  これは僕の声だ。とはいえ、幼くて、おまけに泣きじゃくっている。泣いている僕の相手をしている、この声の主は誰なのだろう? 「わかった。ふたりだけの秘密だ」  やわらかく穏やかな声だけが、優しく僕を包みこんでゆく。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!