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budou-04
「樹、どうした? またティスに何か言われたのかい?」
声が、した。低いというわけではない、やわらかな、若い男の声だ。それが鼓膜を震わせるものではなく、脳のどこかから湧き出してきたものだと気づくのに、さほどの時間はかからなかった。風を切る音に耳が痛いくらいなのだから、例え傍で話しかけられたところで聞き取れるわけがない。
「教えてくれないのかい? 頑固だなぁ」
声は苦笑を孕む。
「アリスには言わないで」
これは僕の声だ。とはいえ、幼くて、おまけに泣きじゃくっている。泣いている僕の相手をしている、この声の主は誰なのだろう?
「わかった。ふたりだけの秘密だ」
やわらかく穏やかな声だけが、優しく僕を包みこんでゆく。
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