【真名と仮名】

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【真名と仮名】

名は体を表すとはよく言ったものだ。この世界において、自分だけが知る真の名「真名(まな)」を他者に知られることはそれすなわち、自身を支配されるも同意だ。自分の親ですら、あるいは一生を添い遂げると決めた恋人にさえ、自身の真名を教えない者は多い。 そのため皆一般的に親に名付けられた仮の名「仮名(かな)」を使って生活している。そして日常生活を送るうえでそれ自体に特に支障はない。 時に裏社会ではこの真名が最も重い個人情報として取引される。借金に追われた者が自分の真名を売ることは少なくない。臓器を売るより安全で臓器と同等あるいはそれ以上の価値があると考えるからだ。しかし、真名を知られることはその後の人生を他者に握らせること、臓器を売るのは一時の苦痛、真名を売ることは一生の奴隷、どちらを選択するかは人それぞれだろうが。 真名を呼ばれることにより、人はその相手に絶対服従を余儀なくされる。たとえそれが自身の意思に反するものであれ、命を脅かすようなものであれ、真名を知るものの命令に逆らうことはできない。 人間はだれしも絶対的な支配者を心の中で待望している。すべてを捧げたいと願う誰かを遺伝子レベルで求めている。だから真名による支配に人は逆らうことができないのだと科学者は言った。 一昔前、王や貴族は自分の騎士や従者、側近の真名を把握していたという文献は数多く残っている。今も昔も人の本質は変わらない。 しかし、近年自分と全く同じ「真名」を持つ者が世界には一人だけ存在し、その者には互いの支配が通用しないという論文が発表され話題をよんだ。まあ、単なる夢物語なのかもしれない。真名を大っぴらに公表できない以上、確認のしようがないのだから。
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