【とある執事と主の賭け事】

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*** 目の前が真っ暗になる。俺は負けたのか。 息が乱れる。いや、どう考えてもこの一方的すぎる盤面は不自然だ。対戦相手である月城(つきしろ) (しのぶ)の顔を睨むようにして見上げるも、勝負は決した。この男がいかさまをしていても、その種を見抜けなかった時点でもはや勝ち目はない。 俺は自分の真名が書かれた紙の入った封筒をディーラーに手渡し、その封筒はそのまま反対側の月城の元へと届けられる。 月城はその場で封筒を開封し、その中から俺の真名が書かれた紙を取り出し笑う。 「光毅(みつき)、三回回ってわんとなけ」 屈辱的な命令に目を見開く。しかし、それは一瞬でその後その命令に恍惚とした高揚感が脳内を支配する。しかし自分の「わん」という言葉が頭を反芻し、はっと我に返る。あまりの恥ずかしさと屈辱、悔しさに俺の後ろに立つアキの顔が見られない。 俺はこの場から消えてしまいたいと思うほどの羞恥に俯くことしかできなかった。 その様子に月城が満足そうに楽し気に笑いながら俺に歩み寄る。 「来栖の資産を総取りか、一生遊んで暮らせそうだな」 来栖家、それはこの国有数の名家の一つ。総資産は軽く億を超え、名だたる企業を総括する。 肩を抱き寄せられ、顔を近づけ値踏みするような視線が不快でたまらない。俺はぐっと目をつむりそれに耐える。 「お待ちください、月城様」 黒服に身を包んだアキが月城に歩み寄る。 「なんだあ?たかが執事が軽々しく俺に声をかけるんじゃねえよ」 「お願いがあります、私と先ほどと同様に「真名」をかけた勝負をしていただけませんか」 アキの言葉に月城はプッと噴き出したかと思うと、その後げらげらと笑いだした。 「俺にメリットがあるか?こいつを取り返したいんだろうが、無駄無駄、受けるわけないだろ」 せっかく手に入れた金づる、逃すかよ。 月城の勝ち誇ったような笑いにその瞬間空気が張り詰める気配がした。俺だけでなく月城も殺気立つ異様なアキの気配に気づいたらしい。笑いが止まる。 「その汚い手でいつまでマキに触ってる」 アキは俺の肩を抱く月城から俺の体を強引に抱き寄せ奪い返すと、その腕に力をこめる。 「その真名を呼んでいいのは俺だけだ」 「やめろアキ、落ち着け」 それ以上何も言うな、気づかせるな。 俺はどんな慰みを受けようとかまわない、どんな辱めも耐えられる。だから、頼むから感情的になるな。そのまま何も言わず俺を月城に引き渡せ。 すべての想いを目で訴える。俺の想いを読み取ったのだろうか、アキは「大丈夫」と笑う。 そして俺がその言葉にほっと胸をなでおろすもつかの間、アキが続けた言葉に脱力した。
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