【とある執事と主の賭け事】

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*** 「あなたをお守りします」 俺よりずっと小さな体で、一体何を言ってるんだと。思わず笑ってしまったのを今でも覚えている。 流川(るかわ) (まき)が俺の屋敷にやってきたのは俺たちがまだ10にも満たない頃。 俺の家には昔から少し変わった風習がある。それは主と執事を入れ替えること。いわゆる影武者という形で主をたてる。これが真の後継者を守る最善の手段であると信じている。当然これは他言無用、これを知り得るのは来栖の血を引くものと限られた召使いたちだけだ。 来栖に恨みを持つ者や、逆にその権力を欲する者、来栖の血を引くものには想像以上に多くの敵がいる。時に命を狙われ、時に誘拐されたりもする。 その役を齢10にも満たない俺よりずっと小さな体をした少年が名乗り出た。 何か裏があるのではないかと初めは思った。しかしマキは一向にしっぽを出さない。 俺の身代わりとなり誘拐されたこともある、ナイフで刺されて死にかけたこともある、それでもマキは俺の影武者を降りなかった。 どうしてここまでするんだと尋ねたら、「アキを守るって決めたから」そう言って笑うマキに心打たれる。 「それならマキは俺が守る」 地獄に落ちる時は共に墜ちよう、お前が死ぬときは俺が死ぬとき。永遠をマキと生きる覚悟をしたのは俺が13を迎えた春のことだった。 ・・・ 「マキを手に入れても来栖の財産はお前のものにはならない」 「ここにきてそんなくだらないハッタリで俺が欺けるとでも?」 「本当だ、マキ・・・いや、光毅、お前の名を教えてやれ」 マキが泣きそうに顔を歪める。そんな顔をされるとマキにひどいことをしている気分になる。泣かせるのはベッドの上くらいにしておきたい。 「流川(るかわ) (まき)」 はっきりとマキの声は月城に届いたはずだ。月城は怒りに頭をかきむしる。 「どうして・・・」 ぽつりと零れ落ちるマキの言葉はそれ以上続かない。くっと唇を噛みしめるマキの額に唇を押し当てる。 「大丈夫」 二人で共に生きることを決めた。 「もう1《ワン》ゲームといこう、月城」 マキがこの手にある内は誰にも負けない。誰にも俺を落とせない、堕とさせない。 断れば俺は自身のすべてをもってしてお前をつぶしてマキを取り戻す。 「お前に拒否する選択権はないよ」 そして俺に万が一でも勝つという選択肢もお前にはない。 さあ、すべてをかけたゲームをしよう。 【とある執事と主の賭け事 《終》】
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