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やった。みごとに引っ掛かった。と思ったところで気づいた。始めてこのゲームに巻き込まれたとき、俺も対戦相手手の男がスイングしているのを見てゴルフがしたいと思ってしまったのだ。つまり俺も引っ掛けられたということだ。
苦笑するうちに向かいの男はテイクバックの体勢に入った。
それを見ながら俺も心の中でゴルフがしたいと願った。
次の瞬間、俺は向かいのホームに移動していた。目の前で男がフルスイングをする。
「ナイスショット」
その声に振り向くと見覚えのある顔があった。キャディーの格好をした死神だ。
「なんだ君たち」
ぽかんとした男が俺と死神を見る。その反応、当然だ。いたずらだとでも思っているのだろう。あのときの俺のように。
俺は少しでも早くゲームを始めたかった。この体は刻一刻と病に蝕まれているのだ。だから死神に代わり説明をしてやることにした。
話を聞く男は案の定怪訝な表情を浮かべた。俺の話を信じていないのは明らかだが、それでも話し続ける。
「ちなみに、プレイ中は俺たち以外の時間は止まっているから。仕事に遅れるとか約束に間に合わないって心配はない」
そこで男は気づいたようだ。ホームに滑り込む車輌、雨上がりの屋根から落ちる雫、今にも電線に止まろうとする鳩、俺たち以外の全てのものが停止していることに。
「なんだ?夢でも見ているのか?」
「夢じゃねーし」
子供の声が聞こえた。そちらを振り返る。中学生くらいだろうか。金髪と黒ぶちの眼鏡。二人の少年が並んで立っていた。どちらも傘を持っている。
今度は俺が驚く番だった。
「は?なんで?」
「僕たちもゴルフがしたいと願ったからに決まってるだろ」
眼鏡君が憎たらしい口ぶりで言った。
「ゴルフって、お前ら子供だろ?」
「子供がゴルフをしちゃいけないって決まりでもあるの?」
「いや、ないけど……。いいのか?」
死神に視線を向ける。
「構いませんよ。私の主催するゴルフに年齢制限はございません。老若男女、全ての方が同じ舞台に立てるのです」
やったと言って二人はハイタッチを交わした。
「やったじゃないよ」
中年男がヒステリックに言う。
「私はやらないぞ。負けたら死ぬんだろ?たとえ夢だろうと死ぬのはごめんだ」
「やらないってことは棄権だろ?」
「棄権するとどうなるの?」
二人の少年の疑問に死神は、
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