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そうこうするうちに4番ホールに着いた。公園。パー4。ティーグラウンドは入り口横のあずま屋。目の前には大きな池があり、それを迂回した先にある公衆トイレがグリーンだ。
打順は俺からだ。狙えば池を越えて一打でグリーンを狙えそうだがやめておこう。なんといってもこれは死神ゴルフ。池の淵に沿って刻んでいくことにした。安全策をとるに越したことはない。
眼鏡君と中年男も俺と同じ戦法を選んだが金髪少年は違った。彼はお友達の肩を小突くと、
「なんだよ。お前までビビってんじゃないよ」
彼は池の向こうをじっくりと見定める。どうやら池越えでワンオンを狙うようだ。スタンスに入り、テイクバックからスイング。
それは会心のショットのように見えた。事実球はまっすぐ公衆トイレを目指して飛び、緩やかに落下していく。
ところが突然強い風が吹いた。最悪なことにアゲインストだ。球はフラフラと押し戻され、水面にぽちゃりと落ちた。
あ……と全員の口から声が漏れた。
「この場合どうなるの?1打罰で打ち直し?」
落下点を見つめたままの金髪少年の疑問に、死神が前に進み出た。
「それはできません」
「え?なんで?」
「球は一つしかないからです」
「そうなの?」
「ですからロストボールとなります」
「ロスト……」と言っている途中で金髪少年の姿が消えた。
死神は平然とした顔で、
「皆さんもお気をつけください。ロストボールは即失格となりますから」
それはつまり死ぬということだ。死神ゴルフの球は己の魂。故に一つしかない。それを失くすということは死を意味するのだ。
ハハハ。と中年男が強張った笑顔で俺を見る。
「あんたを真似てよかったよ。さすが経験者だけのことはあるな」
俺だってこんなことは知らなかった。だが一目置かれておくのも悪くないと思い、「まあな」と嘯いてみせた。
5番ホールからは誰もが慎重なプレイになった。普通のゴルフならいざ知らず、この特殊な状況では何がロストボールとなるかわからないからだ。俺も今までよくロストボールを出さなかったものだとつくづく自分を褒めてやりたくなる。
プレイが慎重になったことでスコアの起伏もなくなった。押しなべてみなが同じような戦法を取るせいだ。だから順位に大きな変動は現れない。
一度は横並びになったこともあったが、結局17番を終えてトップは中年男の+5、一打差の+6で俺と眼鏡君が追う形は3番ホール直後から変わりない。一人脱落した以外は。
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