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最終ホールはパー3。舞台は幼稚園。滑り台がティーグラウンド、園庭を横切り園舎の中、ゾウさん組の部屋がグリーンで、ピアノの前にカップがある。
中年男、俺、眼鏡君の打順で始まった。ここでなんとかしてトップに立たなければ死神ゴルフに挑んだ意味がない。しかしこのホールは一発逆転を狙えそうなポイントが見当たらない。それなら相手のミスを待つしかないのだが、そう上手くいくだろうか。
中年男が手堅く第1打を放ち、ゾウさん組の入り口前に落とす。俺もそれに続く。そして眼鏡君。彼も同じコースを狙ったのだが、落下地点に小石でもあったのか、球はあらぬ方に一度跳ねて砂場に転がり込んだ。
俺と中年男はともに二打でグリーンオン。俺の方が残り距離は長い。
眼鏡君も砂場からグリーンを狙う。俺たちに比べ不利な状況だったが、驚いたことに彼が打った球はグリーンにのるどころかそのままコロコロ転がりカップに吸い込まれた。チップインバーディーだ。これで+5となりトップに並んだ。
気が触れたのかと思うほどに少年が喜びはしゃぐ。それとは対照的に中年男は表情を強張らせた。しかし彼はまだ負けたわけではない。次でカップインすれば首位タイだ。
最悪なのは俺だ。2位以下が決定したのだ。中年男がミスしてくれたら勝利の目もあったのだが、今となっては彼がミスしたところで眼鏡君が単独首位になるだけだ。
俺の番なので仕方なく打つ。ろくに狙っていなかったにも係わらず球はカップの淵をくるりと回って中に落ちた。そんなものだ。スコアは+6のまま。
最後に中年男だ。距離は50センチほど。外すわけがない。と思っていたら球はカップぎりぎりのところを通り過ぎた。彼は茫然自失の体でもう一度打った。ところが今度は届かない。球はカップの手前、風が吹けば落ちそうなほどの位置で止まった。
最下位が確定した中年男は膝から崩れ落ち、地面に両手をついた。
やはり勝負を決するパットにはプレッシャーがかかるものだ。絶対に負けられないとなればなおさらだ。普通のゴルフでもパットを外したせいで心臓発作を起こしたという例も聞いたことがある。死神ゴルフは命がけなのだから重圧はその比ではないだろう。彼はそれに押しつぶされたのだ。
「やったー!勝ちましたよー!」
眼鏡君の台詞は恐らく動画投稿に向けたコメントだ。
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