続・死神ゴルフ

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続・死神ゴルフ

 雨はいつの間にか止んでいた。窓外から車内へと視線を移す。座席は全て埋まり、ドアや連結の近くに数人の乗客が立っていた。性別年齢は様々だが、誰もがその手に傘を持っている。  そう。こうでなくちゃだめだ。あのゲームは傘がないことには始まらない。  腹部に痛みが走る。俺に残された時間はあと僅かだ。焦るあまりに毎日病室を抜け出してあの駅に行った。ホームでゴルフスイングをする奴は居ないかと探して回ったが見つからなかった。当然だ。その頃の天気は快晴続き。誰も傘など持っていないのだからスイングのしようもない。俺一人傘を片手に右往左往していた。  死神ゴルフ。この悪趣味なゲームのせいで俺は人生を狂わされた。いや、ある意味救われたのか。  あの日、駅のホームで男が傘でゴルフスイングをする姿を見た。釣られて俺も同じことをした。その瞬間ゲームが始まっていた。死神主催のゴルフだ。それが始まると俺たち以外の時が止まり、街中の施設をゴルフコースに見立ててラウンドする。クラブは傘、球は自分の魂だ。勝負はマッチプレー。勝てば相手の残り寿命を貰えるが、負ければ死ぬことになる。ゲームは俺の勝利で終わったものの、その直後俺は交通事故に遭った。どうやら元々その日に死ぬ運命だったらしい。だが対戦相手の残り寿命を貰っていたおかげで死は免れた。ところが対戦相手は末期ガンだった。残り寿命は数ヶ月しかなかった。  だから俺にはもう時間がない。  車輌が駅に着いたのでホームに降り立った。向かいのホームにぱらぱらと人がいるのが見える。その中で俺は一人の男に目をつけた。うっすらと頭が禿げ上がった中年男。彼は傘を片手にひと気のないホームの一番端に立ち、ぼんやりと空を見上げていた。  晴れたらゴルフにでも行きたいなぁ……。  俺には男がそんな風に思っているように見えた。  もしその勘が当たっていたら、あとは素振りをしてくれればいいのだが、なかなかそううまくはいかない。それなら試しに誘い水を向けてみよう。  俺は男から見える場所に移動し、傘の先端を握り、U字部分を地面に近づけた。両足を肩幅に広げ、テイクバックし、フルスイング。ちらりと向かいのホームへ視線を向ける。  彼はこちらを見ていた。気づかないふりでもう一度スイング。それからスタンスの体勢で様子を伺った。  きょろきょろと周りを見ていた男はやがて傘を逆さに持ち替えた。
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