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 僕は目を覚まして、しばらくしてからゆっくりと身体を起こした。  手を伸ばしてカーテンを開ける。もうあの日から数日たったのに、光に当てられた手がまだふわふわとしていることに苦笑した。  世那の目が見えなくなれば僕の目を、世那の心臓が悪くなれば僕の心臓を。  この身体は僕が知る最初から世那のもので、だからこそ大事には思っていたけれど、他の感情を抱いたことなんてなかった。  でも今は全く違う。  この手をまだ暖かく思うこと、この手が魔法をちゃんと今日まで、きっとこの先まで繋いでいってくれること。その感覚が手を、心をふわふわと浮き立たせる。  本当は嫌ってほしかったのに、こんなに僕を幸せにしてどうするのか。 (さすがだよ、世那)  あの日僕は部屋に入ってきた世那の目を見て、話さなければいけないと覚悟した。それと同時に、絶好のチャンスだと思った。  いつか、が間違いを振り切って、一人でやってきてくれたのだと思った。  世那の第一声は、僕が僕の意思に反してここに居させられているのだと思っていた。それはやっぱり世那の優しさを表していて、だからこそ、決定的に世那に嫌ってもらうチャンスだと思った。  全ての事情を考慮したら、世那はどうしたってこの流れを止めることができない。いくらおかしいと分かっても。どれだけ(いびつ)だと思っても。  そして世那は、すぐにそれを理解できるだけの頭を持っている。それでも世那は世那であって、どうしようもないと知ってなお、悩んでしまう。  だからそれを全部、僕のせいにしてほしいと思った。  世那よりもずっと前にこの関係を知って受け入れた、そうすることでこの流れを止められなくしたのは僕だ。だからこの現状も世那の苦しさも、全部まとめて僕のせいにして、世那は穏やかでいてほしい。  世那が少しでも長く生きて少しでも幸せを感じるためだったら、僕は世那にとって都合のいい存在になりたかった。 (なのに、さ)   それなのに世那は、僕に温度を教えてくれた。  僕たちがずっと一緒にいる、互いを分け合った二人なのだと教えてくれた。世那も僕もただの人間二人で、そういう世界で今、生きているのだと。  今までただの一度も、不幸だなんて思ったことはなかった。  世那がいる。世那のために僕がいる。それだけで十分だった。幸せだった。  だって世那と僕、それ以外の人間も含めて、みんなが必要なものを得られるのだ。その世界に反する理由があるだろうか。 (そう思ってたのに)  全く予想していなかった。思うようにはならなかった。種を蒔いて、水をあげて、ずっと大事に育てていた花は咲く前にあっさりと刈り取られた。
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