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けれどまあ、まるきり嘘というわけでもないのだ。僕は新たな策を練らなければいけない。今と同じ態度を取り続けるのも選択肢の一つではあるけれど、それではただ単純に、嫌われるだけになってしまうかもしれない。
厳しくしつけをされて何でもやらされる。苦手なことは克服させられ、できることはもっとと促され、細やかな管理のもとで育てられた世那。
小さな頃から叱られることもなく嫌なことをさせられることもなく、大事に大事に育てられた僕。
世那の嫌いは、そういう背景をもとに芽を出した気持ちと、そこにつけこんだ僕が蒔いた種が成長しただけ。だから嫌いならがも、ああいう中途半端な態度しか取れない。目の奥までが憎悪に染まることはない。
そんな世那だから、僕との本当の関係を知ってしまえば後悔する。自分を責めるかもしれない。
だから僕は世那に嫌われる必要がある。
優しい世那が罪悪感なんてものを抱かなくて済むように。代々続くこの仕組みを、自分が終わらせようなんて考えないように。そんなことを考える隙間がないくらいに複雑に、こじれてぐちゃぐちゃに僕を嫌ってほしい。
(ごめんね)
僕は窓際に頭を寄せて目を閉じる。一生口に出すことはない、仕様のない謝罪を心の中で呟いた。
世那を見ていたいとか触れてみたいとか。本当はそんなこと思ってはいけない。僕にこんな感情がなかったら、もっと上手に早急に、世那との適切な関係が築けたかもしれないのに。
(ごめん)
でもできるだけ、頑張るから。
(世那も、頑張ってね)
一卵性双生児の世那と僕は、世那だけが知らない、もう一つの関係性を隠している。
完全無欠のオリジナルと、万一その身体に不具合が起きた時、代替品を供給できる臓器バンク。
(お願いだから)
世那の目が見えなくなれば僕の目を、世那の心臓が悪くなれば僕の心臓を。来るべき時に僕を切り捨てて。僕の身体を受け入れて。
敏感になった耳が、風の声も鳥の声も、草花がささやく内緒話まで集めていく。静寂ではない静けさに、僕はほっと、息を吐いた。
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