2/3
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
 家族、兄弟、双子。一卵性双生児。  俺とあいつの関係を説明するのならばこんなところだろうか。そのどれもが近しい関係だと示していて、そして並べば確かに、姿かたちの基本は同じ。  それでも誰も、俺とあいつを間違えない自信がある。  生きている環境も何もかも、こうも違って、こうも似ていないことがあるだろうか。  名家にふさわしい立ち居振る舞い、けれど決して威圧しない柔らかな雰囲気を備え、時には豪胆さを、時には細やかさを発揮する。勉強、運動、芸術は言うまでもない基本。真面目さも明るさも併せ持ち、親しみやすさを覚えるような、弱みにならない程度の苦手もある。  これが俺を構成する要素であり、世間からの評価でもある。初めは言われるがままだったが、今は間違いなく自分の意志でこれを保ち、成長させている。  これは俺の将来、ひいてはこの家とそこに紐づけられる全ての人にとって必要なこと。そうしてきたことには何の後悔もなく、むしろ性に合っていると思う。  一方であいつは、そのどれも持ち合わせていない。勉強はしているらしく、教科書や参考書を俺が持っていったこともある。地下室(ベースメント)には少しの運動器具もあるから、身体を動かすこともできるだろう。 (できるかは、知らないけど)  おそらくあいつは身体が弱いのだと思う。  そうでなければあの部屋にこもる理由に説明がつかない。  父親、母親、俺。親戚の中でもわずかな人間と、懇意にしている医療関係者。それだけがあいつを知る全てだ。  近隣の住民も学校の誰も、あいつのことを知らない。周囲にとって俺は一人息子であり、九条家唯一の(・・・)跡取りだ。 (異常、だよな)  俺がそれ気づいたのは、驚くべきことに小学校低学年になってからだった。鈍すぎる頭に、どれだけ馬鹿なのかと今でも思う。  何もかもを強要されないあいつが羨ましくて、俺は次から次へと沸いてくる課題に取り組むのが精一杯の日常で、それまでは気にも留めていなかった。  友人が兄弟について話すこと、家族全員が外出すること。  隠されることなんてない。  それに気づいて親にたずねたことはあるが、明確な理由は得られなかった気がする。  しかし考えてもみれば、おそらくそういう理由なのだ。身体の弱い子ども。普通に社会に出られない子どもは、九条にとって弱みになる。どれだけこちらが強固で大きくあろうと、隙を狙おうとする輩はゼロにはならない。  それに本人に向けられるであろう嫌味やあざけりは、精神的に、巡っては身体的な負担にもなる。  だからこそのこの処置だとして、しかしそれに本人が心から納得して満足しているかどうかは別の話だ。  たとえ表面に、ひとつの不満も見えないのだとしても。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!