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いっそのこと九条の家から出してしまえばいいとも思うが、それは俺が口を出すべきことではない。
けれどそうなれば俺が苛立つことも、気持ちがざわめくこともないかもしれない――とか。
駄目だ。
俺は心の中で首を振った。こういう感情は良くない。自己しか省みない考えは適切ではない。
グラウンドから声が聞こえる。体育か。目だけをやると一年生がサッカーをしていた。掛け声に歓声、生気と熱気があふれる空間は微笑ましい。
(そうだ)
これくらいでいいのだ。こうやって年下の、子どもでも見るような気分であいつに接すればいい。そうすれば心穏やかにいられるかもしれない。
もしくは、何とも思わないように努めるか。
ロボットか機械か。それくらいに考えた方が、あいつと接すると思うより楽だろうか。
「九条、ちょっといい?」
「うん、何?」
「この問題なんだけど――」
隣の席から声がかかる。橋本が指した参考書を覗き込むと、背中を押すように、春風がやんわりと吹き込んだ。
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