2人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
季節外れの外出
「今週末暇? ちょっと遊びに行こうよ!」
そうお誘いを受けたのは昨日のことで、今週末というのは今日のことだ。
急なことで何も準備ができていない中、自室でスタンドミラーに自分を写して、着慣れた服装に身を包む自分を何度も見返して、変じゃないかをチェックした。
(いつものことだけど、本当に思いつきで行動するんだよなぁ)
僕を遊びに誘ったのは、同じクラスの女子。しかも隣の席に座っている。
暑がりなのかいつも薄着で、友達と会話をしている時も屈託のない笑顔を崩さない明るい女の子だ。
そんな彼女から昨日の帰りに遊びに行こうと誘われたのだ。確かに普段から何気ない会話をしているけれど、二つ返事で遊びに行くような仲でもない。
それなのに彼女は僕を誘った。なんの用事なんだろうか。
ベッドの上にあるスマホを手に取って今何時かを確認してみると、今日の夕方からすごく冷え込むという季節予報のニュースを見かけた。
(今日は寒くなるのか……。ちょっと厚着していこうかな)
ハンガーラックにかけてある学校に着ていくダウンジャケットを取って、袖を通して羽織った。そして、スタンドミラーで最後のチェックをし、最低限の荷物が入ったバッグを背負って部屋を出ていく。
「あんた、そんなに厚着で大丈夫なの? ほら、これ持っていきな」
階段を降りて一階に降りると、そう母が声をかけて、一本のスポーツドリンクを投げ渡された。
「ちょ、ちょっと。危ないなぁ」
危うくスポーツドリンクを落としそうになったけど、キャッチしてカバンに放り込んだ。
僕は行ってきますと母に言うと、玄関のドアノブを握って外に出た。
太陽が燦々と輝き、直射日光が僕の顔をヒリヒリとさせる。
(暑いなぁ)
そう思いながら、集合の場所へと向かった。
予定通りに約束の集合場所に到着すると、彼女はまだいなかった。
相変わらず時間にルーズだ。
さすがに暑かったのでダウンジャケットを脱いで、腕にかけ、母からもらったスポーツドリンクをちびちびと飲んでいると、数十分後に彼女が現れた。
「ごめんごめん、遅れちった!」
彼女は現在の季節にあった薄着をしている。
「遅いよ。どんくらい待たせているの」
「もう、男なんだから、女子の遅刻くらい多めに見てよ!」
「誘っておいて遅刻する方がおかしいだろ」
そう言うと彼女は、顔で講義するように口をとんがらせた。
「それで今日は何しにいくの?」
「ショッピング!」
屈託のない笑顔だ。いつもクラスメイトに見せるその笑顔は太陽のように眩しい。
「それって僕必要なの?」
「いいじゃん、いいじゃん。ほらほらいこうよ」
そういって彼女は僕の手を掴んで歩き出して、近所のショッピングモールへと向かった。
その時に感じた彼女の温もりに少しドキドキした。
さて、そのあとはショッピングと言いながらも、結局何も買わずに仕舞いで、僕にこれかわいいかな?と意見を求めるぐらいだった。
僕は正直に可愛い、微妙、あってないと答えると、返答の内容で彼女の顔がコロコロと変わるのが楽しかった。
そんな奇妙な遊びもそろそろ終わろうとしている。
空はすでに薄暗くなっていて、空気も冷たくなっている。
「うわ、寒い! 何これ!」
「何? 今日の季節予報見てないの?」
「うん、見てない」
「今日の夕方から冬になるって」
「えー、失敗したなぁ。あんた、こんな暑いのにすごい厚着していて、どんだけ寒がりなんだーって思ってたけど、こう言うことだったのね」
空気が一気に冷えていい、彼女は少し体を震わせて、寒そうに両手を擦り合わせている。
そんな彼女を見かねた僕は、手に持っているダウンジャケットを後ろからそっと、かけてあげた。
「うわ、な、何?」
「暑がりの君でもさすがに寒いだろうと思ってね」
「あ、うん。ありがとう」
ぷいと頭を背けた彼女の顔はあからんでいるようにも見えた。
空から雪も降ってきた。
最初のコメントを投稿しよう!