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部屋の中には他に何もない。あるのは台の上に置かれた『クロッシュ』だけ。
何が入っているの? 料理? 動物? スマホ?
いずれもあたしを誘惑するものには違いない。そういう指示で置かれているはずだから。
案外、あっさり出口の鍵かも──という淡い期待とは裏腹に、クロッシュの下には黒い鍵と何かのチケットが忍ばせてあった。
出口の鍵? と何だろう。チケットを取る。それは新幹線の切符だった。
「長野県……行き?」
行き先を示されたチケットを見て膝から崩れ落ちそうになる。
長野県はパパとママのいる──あたしの生まれ故郷。
いつでも帰っておいでと言ってくれた両親を思い出して胸が熱くなる。
林城あやめは、まだ15歳の中学生なのだ。
故郷と親元を離れた生活は、寂しさや不安をいつも抱えてた。
黒い鍵を見て想う。
(黒い扉から出れば、私は故郷に──パパとママのいる長野に帰ることができるのね)
鍵とチケットを掴み歩き出す。ここまで来たんだなって感慨深くもある。
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