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2.敗者
四年後、就職活動の時期になった。
大手銀行に入って、世界を代表するバンカーになる。そんな人生設計を持っている私にとって、明日の一次面接は負けられない戦いだ。
業界研究もした。失礼のないように振る舞った。しかし、面接の一週間後、お祈りメールが来た。
「貴殿の今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます」
仕方なく、二番手、三番手の銀行にも応募したが、玉砕した。入れたのは、中堅の商社だった。
人生設計が完全に狂い、全くやる気が出なかった。業績評価も、同期の奴らに負けていたけれど、どうでもよかった。負けられない戦いに負けた人間は、負け癖がついてしまうものらしい。
三年後、上司に呼び出されて、言われた。
「このままだと、君は今年でクビだぞ」
クビはさすがに不味いので、回避出来るように必死に頑張った。なんとか、リストラのルートから、外れることが出来た。
それから十年、何とかその会社で頑張っている。人生設計を実現させるためではなく、クビにならないように頑張っている。
負けられない戦いに負けたせいで、頑張るステージが変わってしまった。
とはいえ、なんとか生きている。なるようになるものだ。そして、世の中には、頑張っても如何ともし難い壁がある。なかなか、それには逆らえない。
なんと、負け犬の発想。
負けられない戦いに負けたせいで、価値観が変わってしまった。
もし、乗っている飛行機が落ちて、日本海のど真ん中に置き去りになったら、私は少し頑張って、諦めてしまうかも知れない。自分の力なんて、こんなものだ。どうしようもない。
でも、飛行機が落ちるなんて、縁起でもない。あまり、飛行機に乗らないようにしよう。
(完)
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