Immigrant Song

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 『ブー』ブザーが鳴った。足音が聞こえない。注意深いやつだ。 「ジジ、きたわ」  誰だ?声じゃあ分からねえ。キス女か?  生きていくには飯がいる。誰とも約束なんかしてねえけど、食いもん持ってるんなら入れてやってもいい。  俺は玄関のドアの前に立ち、小声で聞いた。 「だれ?」 「わたし。わからない?リルゥ。友達になってくれるって」 リルゥ?ラ行が多い名前だな。  ドアを少しだけ開けて、顔を見た。ああ、あいつか?運動の。めんどくせえ感じの。 「食いもん、持ってっか?腹が減ってんだ、リルゥ」 「唐揚げ持ってきた、あんた下級市民だから」  一瞬、ムカッときたが、女が唐揚げ持って玄関にいるのに、追い返すバカはいねえ。下級市民のところは忘れてやろう。  ドアを開けて中に入れてやった。  ショートカットで大きな目をした女だ。玄関先でとりあえず、抱きしめて、キスをしてやる。軽くだ。挨拶程度の。 「ウー…」女がうめく。  体を離して、紙袋を持って椅子に腰掛ける。女は余韻をかみしめるように、フラフラとよろめき、ベッドに腰かける。  紙袋の開けて匂いを嗅ぐ。揚げた肉の匂い。最高だ。これ以上の食いもんなんて思いつかねえ。唐揚げを一つとって、大きく噛みちぎった。  肉の味だ。説明できねえ。少しピリッとする。 「最高にうまい」
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