Immigrant Song

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 リルゥ…白いブラウスを着て、ひらひらとしたスカートを履いていた。縁の細い眼鏡をかけて俺が唐揚げを食べるのを見ていた。  油でベトベトになった手を台所で洗い、ふきんで拭いた。 「ありがとな、メシ」  メシのお礼は欠かせない。それが生きる方法だ。 「美味しかった?」 「ああ、こんなにうまいもんを食ったら、バチが当たりそうだ」  大きな目をパチパチと、まばたきを繰り返す。うっすら化粧をしてる気がする。今どきは珍しい。ピンクの口紅、アイラインとマスカラ、それと俺の知らないいろいろな何か。 「化粧してんのか?」 「ええ…少し」頬を赤くしてうつむく。なんだこいつ。てれるぐらいならやめときゃいいのに。普通市民だって化粧品なんか、なかなか手が出ないだろうに。 「それより、例の話考えてくれた?」 「ああ、なんとか運動をするから、友達を誘っといてって話だよな」 「自由恋愛復古運動。人々のあいだにもう一度トキメキを取り戻すの」  リルゥは立ち上がって俺の目の前に立ち、手を広げて訴える。 「あなただって、賛同してくれるでしょう?」  女は俺より10センチ以上背が低い。俺を見上げて、またまばたきをする。近えよ。リルゥ。 「俺は難しいことはわかんねえ。お前みたいにおつむが良くねえからな。でも俺は自分が何が好きで、何が嫌いかよくわかってる。俺は女が好きだ。女のにおいが好きだ。女の唇が好きだ。柔らかさが好きだ。中に入れたときの暖かさが好きだ。出したときの高揚感が好きだ。嫌いなのは俺が好きなものを次々と奪っていく政府が嫌いだ」  女は何度も何度もうなずく。そんなにうなずいたら首がもげるんじゃねえかと心配になる。 「そうなの。私たちは恋をして結婚をして、子供を産んで長い間暮らしてきた。中には同性愛の人もいたり、結婚しても子供を産まない人たちもいたけれど、そういう人たちも含めて人類は発展し、地球を支配する生物になった」  地球を支配する生き物?そうなんだ。シーチャなんかには、地球を任せられそうにないけど。 「私たちは政府に恋を奪われた。同じ階級の人しか個人的な話はできない。だってキスも何もかも奪われたのよ。私たち普通市民は去勢され、生殖活動ができない。普通であるからこそ私たちは存在意義が…」 「ちょっと、ちょっと。わりいけど俺に演説はいらねえ。理屈は性に合わねえ。俺にいるのはなんて言ったらいいのかな。感覚だ。気持ちいいとか、柔らかいとか、うまいとか、それだ。それがなんとか明日へと運んでくれる。それに俺の感覚は間違っちゃいねえし、うまく言えねえが他の人間よりもちょっぴりその感覚が鋭いんじゃねえかと思ってる」  俺はキスでメシ食ってんだ。ああ。  俺は目の前に立ってるリルゥの腰に腕を回し、体を引き寄せた。彼女が目を閉じる。そーっと唇を合わせる。少しビクンと彼女が体を震わせて、体を俺にあずけた。  少しずつ味わうようにキスをする。しだいに濃厚になり舌をからませあい、むさぼり合う。「ああ…」リルゥの声が思わずもれる。  
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