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靴が破れているので、靴下まで水が染み込む。ここへ来るまでに、ビチョビチョになった。
額に雫が垂れてくる。袖で拭うが、またすぐ垂れてきて、キリがない。早く出てこい。
チュッパが姿を現した。同い年だが苦労しすぎて、俺よりも老けて見える。
「なんだ、ジジか。ここに顔出すなって言ってるじゃん」
ドアを閉めようとした。体を半分入れて、閉められないようにする。チュッパの顔が目の間だ。
「そんなこと言うなよ。なあ、腹減ってんだよ。頼むよ。なんか食いもんくれよ」
「ジジもちゃんと働いて、普通市民になればいいじゃん。そしたら食うに困ることはないよ」
働いて働いてやっとの思いで掴んだ普通市民ですか。こんな場末のヌードルショップの店長でも、偉くなったもんだ。
「そのさ、なんとかポイントっていうのがさ、苦手なんだよね」
「別にポイント自体は、働けば勝手に貯まっていくじゃん。ジジが管理してるわけじゃないから」
「いいからさ、なんか食いもんくれよ。そしたら帰るからさ」
「あのね、私はもう普通市民なのよ。下級市民と私語を交わすとわたしもまずいことになるわけ。知ってるでしょ。それに…」
「それになんだ?」
「今日から自由恋愛禁止法とか、なんとかそんな法律ができて、そのあれよ。とにかく難しいのよ」
チュッパは知らないくせに、すぐ知ったかぶりをする。爪を噛み始めた。イライラが始まった。
「なんかラジオでごちゃごちゃ言ってたやつ、それか?」
「そ、そうよ。だから、もう帰って」
チュッパが無理にドアを閉めようとした。俺は締め出されまいと、厨房に体をねじ込んだ。その拍子にチュッパと俺はもつれるように、厨房のヌルついた床に倒れ込んだ。
俺はチャンスだと思い、チュッパの頭をもち、強引にキスをした。チュッパは少し抵抗しようとしたが、すぐにあきらめ俺のキスに身を任せた。
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