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「せっかく、食べ物と飲み物持ってきてやったのに、冷たいじゃない。どうしてもっとキスしてくれないの!」
チュッパは俺の肩を掴み、顔を近づける。俺はフェイントをかけて、鼻を甘噛みしてやった。
「キャッ」チュッパは思わず、俺から手を離し、俺のベットにへたり込んだ。
「もう、ジジ。私、あなたのおかげでだいぶん危ない目にあってるのよ。わかる?ここに来たことがバレたらまた、ノーマルワーキングポイントが減らされる。普通市民と下級市民は私的交流を持ってはならないって、ちょっと前にそういう法律ができたでしょう」
俺はチュッパの話を無視して、彼女が持ってきた紙袋をのぞく。中にはチャーハンとあんかけ焼きそばみたいなものが、プラスチックの容器に入っていた。
「サンキュ。チュッパ。恩にきるよ。飲み物は?」
俺はコップを持って何かをのむ身振りをした。チュッパはポケットに手を入れてチューハイグレープフルーツの缶を投げてよこした。
「素晴らしい。チュッパ。それでこそ最愛の友」
「嘘ばっかり。私を都合のいいように使ってるだけじゃない」
さっきはお前が俺の上で、俺を求めていたと思っていたが。
缶を開け、一気に半分ぐらい飲んだ。
「ハアッ。最高だ。お前も。こいつも。普通市民ってやつは、なんでも手に入る魔法使いだね」
「ねえ、ジジもちゃんと働けば、ノーマルワーキングポイントもたまるし、飲みたいものも食べたい物もすぐに手に入るんだよ。なんでもいいから働きなよ。頭だってそんなに悪くないんだし」
頭が悪いとかいいとか、そういうことなのか。意欲の問題だ。
「やだね。そのなんとかポイントってやつも気に入らないし、普通市民になるには男は去勢しなきゃならないし、女は子宮を取らなきゃならない。そんなのはバカげてる。それにあそこの穴も縫っちまうって話だ。どこに何を突っ込めばいいんだ?」
「だってそういう法律が数年前にできたんだもん。子供は国が人工的に管理し自然に妊娠、出産できるのってIQと運動能力の高い上級市民の一部だけになったじゃない。それ以外は厚生省の国民人口統制局が、人工授精人口出産で子供を管理しますって」
「難しいことはわかんねえ。俺はよ。ただ俺は絶対に去勢なんかしない。俺には子供を作ることがこの先ないとは思うけど、いざって時に役に立たない物ぶら下げてそれで、はい普通市民ですって、しけたツラするなんて、クソだと思うけどね」
「だって普通市民にならないと、ろくに食べ物も飲み物も買えないんだよ。生きていけないじゃん。別に子供なんていらないじゃん。セックスなんてしなくてもいいじゃん。キスさえできたら、私…」
ダメだ、こいつも。もうお上のいいなりだ。そりゃ、最後までできるんならキスの一つもしてやろう。でもそれだけじゃあ、俺のリビドーだっけ、そいつは満足できやしない。
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