今は昔竹取の翁という者ありけり

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今は昔竹取の翁という者ありけり

 コンコン……  コンコン…… ん……、なに……  ドンドン! ドンドンドン!! えっ!? な、何!? 目を開けて驚いた。 誰!? おじいさんがガラスに張り付いて、ドンドンと叩いている。 何?  どうしたの? 状況が飲み込めなくて、頭が真っ白になる。 「何しとる? 大丈夫か?」 イントネーションも変なら、発音も変。とても聞き取りにくい。 誰? このおじいさん。 と思ったら、おじいさん、手に持ってた(なた)を振り上げた。 「今、出したる。下がっとき」 えっ!? いや、ちょっと待って! 「あの! 大丈夫です!  ちょっと待ってください」 私はおじいさんを制すように手を挙げる。  周囲を見回して分かった。  私は、地震で落下したガラス張りのエレベーターの中にいる。けれど、どこにもホテルらしき建物も、その残骸すらなく、どう見てもここは、竹林。竹林の地面に、落下したエレベーターのゴンドラだけが突き刺さるように立っている。  私は、エレベーターのドアに手を当てて、力を入れて左右にスライドさせる。すると、地震の時には開かなかったのに、今はすうっと開いた。 「おめぇさん、なんでこんな中に  (へぇ)っとったんや?」 ん? よく聞き取れない…… 「どこのお姫さんや? こんなきらっきらした  着物、わしゃ初めて見たわ」 お姫さん? ああ、そうか、私、ドレス姿だった。 「あの、私、結婚式の途中だったんです。  すみませんが、ここはどこか教えて  いただけませんか?」 「あぁ!? なんじゃ? 結婚……?  ここは、大和のさぬき村じゃわ。  わしが村長(むらおさ)のひごつくりじゃ」 大和? さぬき村? ひごつくりって名前? 変わった名前…… 疑問が次々に沸き起こる。
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