今は昔竹取の翁という者ありけり

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「まずは、お姫さんをお送りせなかんで、  どこのお屋敷か教えてくれんかの」 えっと、どこって言えばいいんだろう。 ホテルの名前? 正輝さんの会社? 正輝さんち? 「えっと……  ファンタジック・フォレスト・ホテルに  行きたいんですけど」 「ふあ……?  聞いたこともねぇ村じゃなぁ。  んったら、村で知っとるもんがおらんか、  聞いてみるか。  ついて来んさい」 私は、よく分からないながらも、おじいさんの後について行く。……けれど、ふかふかに積もった笹の葉にハイヒールは取られるし、長いトレーンには笹の葉が絡まるし、とっても歩きにくい。私は、裾をくるりと巻き上げて両手で抱え、ハイヒールが、埋まらないように爪先歩きでそろそろと進んでいく。  竹藪を抜けて、驚いた。 何これ!? のどかな田園風景……と単純には言えない違和感がある。  家が……趣があり過ぎる。  どこかの世界遺産で見たような茅葺き屋根なんだけど、何故か平家、というか、地面に屋根がつきそうなくらい下まで伸びてる。世界遺産の地区は、わりと高い屋根で、屋根裏で養蚕とかしてたイメージなんだけど……  道も、全く舗装されてなくて、畦道に毛が生えたような土を固めた道。さすがに、ハイヒールが埋まるほどのことはないけど、道の真ん中にも所々草が生えてたりするから、やっぱり歩きにくい。  おじいさんが案内してくれたのは、おじいさんの自宅らしい。村長(むらおさ)っていうだけあって、おじいさんの家は、茅葺き屋根ではあるものの、普通の木造建築の上に大屋根が乗った感じで、広々としている。 「ばあさんや、ばあさんや」 戸口を開けたおじいさんが声を掛けると、 「はい、はい」 と気の良さそうなおばさんが中から現れた。 「このお姫さん、どこのお姫さんか分からん  のじゃが、どうしたもんかのぉ」 「はて? これはこれは、見事なお召し物。  さぞ、名のあるお屋敷の  お姫さまじゃろうて」 …………どうしよう。 今、すっごくあり得ないことを思いついちゃった。 絶対にあり得ないんだけど、他に考えようがなくて…… だって、どんな田舎に住んでたって、今どき、ドレス見てお姫様ってならないでしょ!? せいぜい、何のコスプレ?くらいだよね。 でも、どうしよう、確認するのも怖いんだけど……
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