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翌日、私が家の中にいると、外から声が聞こえた。
「なぁなぁ、せっちゃんちに昨日、
天照さまがおいでになったって
本当けぇ?」
へ?
天照って私?
「どこぞのお姫さまをじいさんが
拾ってきての、帰れん、ゆうから、
お世話さしてもろうとるんよ」
「なんや昨日、ゆきちゃんが
見とったらしいて、神々しいばかりに
きらっきら輝く女神さまが、村長さまの
家に入ってった、ちゅうとったが」
「んじゃな、確かに、天照さまもかくや
ゆう程、きらっきらしたそれは見事な
お召し物じゃ。
天照さまのお遣いやも知れんのう。
んなら、大事に大事にお世話せねば
なんねぇな」
なんか、すごい勘違いしてるけど!?
その日から、おじいさんは仕事を早めに帰り、私をまるで神様を祀るかのように、いろいろ張り巡らせた。御簾を下げ、敷物を敷き、下にも置かんばかりの扱いだ。
「あの、おじいさん、おばあさん、
誤解されてるようですが、私は天照大神とは
何の関係もありませんよ」
「いや、しかし、やんごとなきお方には変わり
あるめぇ。
今、大きな屋敷を造らせとるで、もうしばらく
辛抱してくだされ」
「えっ!?」
「お姫さまのいらっしゃったあの光る竹は、
豪族方に大変な人気やってな……
少しずつ砕いて売りましたら、たいそう
儲かりましたので、お姫さまの御館を
造らせとります」
光る竹って、エレベーターのこと!?
ガラスを割って売ってるの!?
そりゃあ、ガラスなんて見たことない人だもん、キラキラのダイヤモンドみたいに貴重品扱いしてもおかしくはないけど……
でも、それで荒稼ぎして大きな屋敷を建てるって、いいの!?
っていうか、どっちかっていうと、大きな屋敷よりおいしいご飯の方が嬉しいんだけど……
・:*:・:・:・:*:・
私の母は夕方忙しく、夕食はたいてい、旅館の賄いだった。弟も一緒だったし、別に寂しいと思ったこともない。ただ、そのせいで舌だけが肥えてしまった。友達と出かけても、素直においしいと言えない料理に出会い、愛想笑いを浮かべることもある。
だから、ここの食事は、残念すぎて辛い。
調味料が塩しかない。醤油も味噌も、砂糖もこしょうもない。幸い、昆布と鰹節のようなものはあるのがせめてもの救いだけど、それでも、雉子や兎のお肉を出してくれるときには、こしょうを振りたくもなるし、汁物には醤油や味噌を入れたくもなる。
帰りたいよぉ……
正輝さんに会いたい。
おいしいものが食べたい。
でも、やっぱり正輝さんに会いたい。
正輝さんのお嫁さんになったばっかりなのに、1日も新婚生活できないまま離れ離れなんて、寂しすぎるよ。
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