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管弦の宴
それから3ヶ月ほどで新しい家ができ、引っ越すことになった。
今までとは比べ物にならないほど立派なお屋敷。
ぐるりと塀に取り囲まれ、いくつもの建物が並んでいる。
すごい…… 何これ?
これ、きっと、豪族の家と同じくらい豪華だよね!?
私は、ここに3ヶ月もいて、ようやく色々なことが分かってきた。
今の大王の前の前が、大化の改新をした中大兄皇子で、次がその息子の大友皇子、その次が現在の大海人皇子らしい。大化の改新は実際には乙巳の変と呼ばれ、その後、朝鮮半島で白村江の戦いっていう大戦争があったらしい。私は知らなかったけど、この少し前の時代まで、朝鮮半島は日本の領土だったのに、その戦争で負けて、日本は朝鮮半島にあった領土を失ったらしい。朝鮮半島の百済の王子さまが日本で生活をしてたなんて、知らなかったよ。それって、戦国時代に徳川家康が今川家で人質生活をしてたのと一緒だよね!?
その敗戦で心機一転、中大兄皇子が近江に遷都した。その後、弟への譲位が一般的だったこの時代に息子への譲位を行ったことで大海人皇子が反旗を翻したらしい。その壬申の乱で勝利した大海人皇子が大王の位に就き、再び飛鳥浄御原への遷都をして現在に至る……とのことだけど、正直、日本史なんてそんなに真剣にやってこなかったから、よく分かんない。
だって、私は、譲位って親子が普通だと思ってたもん。大友皇子さまと大海人皇子さまは、年も近いそうだから、そりゃ、親なら、我が子に譲りたいよね。
そんな、社会の時間にもさらっと流して1時間で終わってしまうような古代に私がいるなんて……
せめて、江戸時代とかなら、もう少しおいしいものが食べられたのになぁ。
おじいさんとおばあさんは、相変わらず、私をお姫さま扱いして、外にも出させてくれない。
全然、お姫さまなんかじゃないのに。
せめて、琴でもあれば、時間も潰せるのに。
でも、ないんだよね。
大学の音楽史の時間に習った。
私が専攻してる琴は、正しくは筝と書く。
奈良時代に中国から伝来したもの。
だから、都が平城京じゃないこの時代には、まだない。
中国には、あるはずなんだけどなぁ。
だけど、琴を弾きたいと呟いている私の独り言を聞いたおじいさんは、嬉々として琴を手に入れてきた。
「ほれ、お姫さま、琴じゃぞ」
と得意げに御簾の前に置く。
これ、琴の琴! 和琴だ!!
それは、絃が6本しかなく、絃である糸も私が見慣れたものとはだいぶ違う。柱も普通の木の枝に見える。
でも、琴である以上、音楽を奏でられるはず。
私は、早速、その琴を鳴らしてみる。
指にはめる爪ではなく、ギターのピックのような爪。
ダララララン!
筝の琴とは違う、低くて深い音が鳴った。
でも、かっこいい!!
誰か、先生いないかなぁ。
「せめて、弾いてるところを見たいんだけど……」
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