管弦の宴

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 それからしばらくすると、おじいさんが言った。 「今宵、管弦の宴を催すで、楽しみに  してくだされ」 「えっ? 管弦の宴?」 って何!? 「お姫さん、前に、言っといでたろう?  この琴を弾いとるところを見てみたいと。  そやから、名うての笛吹きや琴弾きを  招いて、酒でも酌み交わそうと思うてな」 「わっ、嬉しい!」 つまり、未来のジャズバーみたいなのをおうちでするってことでしょ? みんなで音楽を奏でながら、お酒なんて、楽しそう。 私は、わくわくしながら、夕方を待った。 けれど、なぜか、おばあさんがとてもいい着物を持って来て、着替えろという。 着物と言っても、私がいつも着てた着物でもなければ、源氏物語で想像する十二単衣でもない。  トップスは、たもとがない着物みたい。たもとはないけど、袖口はゆったりしてる。丈は、膝上、ミニスカートくらい。  ボトムスは、カラフルなストライプ模様のロングスカート風。マキシ丈よりさらに長く、爪先も隠れるくらい。  どこか中国風な雰囲気もあり、それなりにおしゃれだと思う。  長月(ながつき)に入り、夜はそれなりに冷え込む。長月は9月って古文の時間に習ったけど、実際には、10月くらい。お月様で暦を数える太陰暦だからかな?  おじいさんたちは、ドレスを着て欲しかったみたいだけど、とてもノースリーブのドレスで夜を過ごせないし、何より、お酒でもこぼしたら大変だ。  私は、おばあさんに勧められるまま、その新しい着物に着替えた。私は、御簾の外には出ちゃいけないって言っておきながら、何で着替えなきゃいけないの?  夕方になり、庭には、篝火がいくつも焚かれた。炎が揺らぐ様子が、とても幻想的だ。私は(きざはし)の上の御簾の中から、庭を眺める。  次第に人が集まり始めた。若い人、年配の人、年齢に関係なく大勢の男性が集まり、わいわい始める。そのうちに、1人が太鼓を鳴らし始め、それに合わせるように笛を吹き、琴が鳴った。 かっこいい。 なんだろう?  雅楽っぽいけど、どこか違う、不思議な雰囲気。  私は、音階を耳に入れていく。子供の頃からピアノを習い、訓練してきたおかげで、音楽は全て階名で聴こえる。聴こえた音に合わせて、()を動かし、自分の琴をそっと調音する。  どうも、みんなのお気に入りの曲があるようで、何度も演奏される曲と、一度演奏されたきり、演奏されない曲があるようだ。  私は、早速聞き覚えた楽しげな曲に合わせて、琴を鳴らす。これは、別にコンクールじゃないし、音楽を専門にやってきた人たちじゃない。気負って上手に弾く必要がないから、楽しい。  
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