管弦の宴

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 私が音楽を楽しんでいると、トントンと1人の男性が私の目の前の階段を上ってくる。 何? 誰? とても豪華そうな衣装を身につけたその男性は、父よりも年上に見える。おじいさんと同世代くらい? ってことは、還暦くらいなのかな? ああ、もしかして、おじいさんのお友達? そんなことを思っていると、御簾の向こう側から、声を掛けられた。 「天照(あまてらす)の化身とも月讀(つくよみ)の娘とも  噂されるかぐや姫」 は? はぁぁぁぁ!? 何それ!? とんでもない誤解をしてない? 「左大臣丹比真人島(たじひのまひとしま)と申す。  わしは、そなたの噂を聞いてから、夜も  眠れぬほどあなたに恋焦がれて参った。  どうか、わしの妻になっていただきたい」 はぁ!? 驚きすぎて、言葉も出ない。 私は、かぐや姫じゃないし、そもそも、あなたいくつよ!? ひとまわり年上の正輝さんは大好きだけど、あなた三回り以上年上じゃないの? そもそも左大臣って、偉いのよね? この国で、大王(おおきみ)の次か、その次くらいに偉い人よね? そんな人が何を血迷ってるのよ。 このエロじじい!! すると、私の隣にいたおばあさんがそっと尋ねる。 「お姫さま、いかがなさいますか?」 私はブンブンと首を振った。 あり得ない。ぜぇったいに、有り得ない。 恋に年齢は関係ないとは言うけど、そもそも恋してないし、恋できる気もさらさらしない。 そんな私の様子を見て、おばあさんは御簾の向こう側に向かって声を掛ける。 「申し訳ございません。  姫は、恥ずかしがっております。  どうぞ、またの機会に……」 またの機会なんて、ないから! 私は、たとえ会えなくても、正輝さん以外と結婚するつもりはないんだから!
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