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結婚式
「上で係の者がお待ちしておりますので……」
そう言って、エレベーターの行き先階ボタンを押した黒いスーツ姿の女性は、エレベーターから一歩下がって丁寧に一礼する。私は、彼女に見送られてガラス張りの円筒形のエレベーターで一つ上の階を目指す。
ここは、正輝さんの会社近くの超一流ホテル。
私は、先程、正輝さんと永遠の愛を誓い合い、現在、披露宴の真っ最中。
さっきまで着ていた真っ白なウェディングドレスから、派手すぎないクリームイエローのドレスに着替えて、披露宴会場を目指す。
半分、建物の外側に飛び出すように設置されたこのエレベーターは、扉の反対側の一部が鏡になっていて、ドレス姿の私が映っている。
晴れ男だと宣言していた正輝さんの予言通り、6月の貴重な晴れ間となった今日、私は正輝さんのお嫁さんになった。
ガラス張りのエレベーターには燦々と初夏の日光が降り注ぎ、ドレスに施された金糸の刺繍がキラキラと眩い光を放っている。
「綺麗……」
私が思わず呟いた時、エレベーターが、ガクンと大きく揺れた。
な、何!?
立っていられなくて、私はその場に転んで手を突いた。
あ、危ない!!
鏡の横のガラスから外に目をやると、眼下にある路肩の街灯が、大きく傾いで倒れていく。
地震だ!!
エレベーターはすぐに上階に着いたが、扉が開かない。扉の前には黒いスーツ姿の係の女性がいるけれど、彼女も立っていられないようで、えんじ色の絨毯に手を突いて丸くなっている。私は、エレベーターの床を這うようにドアに向かい、手で開けようと中央の微かな隙間に指を掛けた。
その時!!
また、ガクンと揺れたかと思うと、体が宙に浮いた。
ううん!! 違う!!
エレベーターが落ちてるっ!!
どうしようっ!? 私、死ぬのっ!?
やだっ、死にたくないよ!!
正輝さん!! 正輝さん、助けて!!
せっかく、正輝さんのお嫁さんになれたのにっ!
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