大納言 大伴御行

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大納言 大伴御行

 その3日後、早速やってきたのは、大納言(だいなごん)大伴御行(おおとものみゆき)さまだった。 「かぐや姫、どうか、この私の思いを  聞き届けていただけませんか?」 ほら、やっぱり。 そりゃあ、好きでもない人からだって、告白されれば、女として嬉しくないわけじゃない。 でも、この人が好きなのは、私じゃなくて、噂のかぐや姫なんだもん。 私は全然、神様とは関係ないし、極々普通の女子だし。 だから、なんだかどうでもいい、赤の他人に対する告白を聞かされているようで、はっきり言ってつまんない。 私は、相槌すら打つことなく、ただボケッと彼の話を聞き流していた。  すると、しばらくして、彼はこの間の管弦の宴の話を始めた。 「この間のかぐや姫の琴、大変素晴らしく、  心打たれました。  よろしければ、ぜひ今一度、お聴きしたいの  ですが……」 琴は好き。 それが、例え、(そう)の琴でなくても。 だから、私は、返事の代わりに、琴を弾いた。 この間、見聞きしたから、以前よりちゃんと弾けるようになった気がする。 右手で爪を持ち、上から下へ、下から上へ、ピアノのグリッサンドのように琴をかき鳴らす。次に爪を持っていない左手の指で、直接、(げん)を弾いてメロディを奏でる。 うん、楽しい。 アラフォーおじさんのつまんない告白を聞いてるより、よっぽど有意義な時間だ。 それこそ、私は小一時間ほど、彼を無視して琴を弾き続けた。  そして、気付いた。 これ、筝の琴のように()をずらせば、西洋音階も鳴らせる! 私は、ご機嫌でポップスやクラッシックなど、好きな曲を奏でる。 すると、彼は言った。 「これは……  噂に(たが)わぬかぐや姫だ。  このような神々の音色、初めて聴いた」 私が好きで、勝手に弾いてた曲なのに、西洋音階を初めて聴いた彼は、思いっきり勘違いしている。 そんなんじゃないのに。 「私は、姫のためなら、何でも致しましょう。  何か、お望みはございませんか?」 そんなの、私を元の世界に戻してもらう以外に、望みなんてない。 ……そうだ! かぐや姫だもん、無理難題を言えばいいんだ。
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