大納言 大伴御行

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「では、胡椒を持ってきてください」 私は欲しかった物をリクエストする。 味噌や醤油はこの時代には存在しないけど、胡椒ならこの地球上のどこかに必ず存在する。 「こ…しょう?  胡椒とは、どのような物でございましょう?」 どんな物? 「えっと、小さないくつもの粒です。  確か、ホワイトペッパー、ブラックペッパー  の他に、グリーンペッパーやピンクペッパー  があって……」 そこまで言って気付いた。 彼がわけが分からないというようにポカンとこちらを眺めていることに。 「あ、つまり、白、黒、緑、赤などのいろんな  色の粒なんです」 「して、それはいずこに?」 確か、イギリスが東インド会社から輸入してたって授業で習ったよね? 「インド……えっと、ヒマラヤの向こう……も  通じないよね。  うーんと、海の向こうの国をずっと行った  所に、雲の上より高く、こう……」 私は、人差し指でヒマラヤの山々の峰を表すようにジグザグと波模様を宙に描く。 それを横で見ていたおばあさんが、ポンッと右の拳を左のてのひらに落とした。 「なんと!  それは、竜がいつも首に着けているという  五色の玉のことでございましょう!?」 えっ? 「雲の上を飛ぶ竜の首にある、五色の玉を  持って参れと……?」 おばあさんの話を受けて、大納言さんは顔面蒼白で固まった。 「いえ……」 どう訂正すればいいの? この時代の人に分かる言葉で、説明するのって、超難しい。 「分かりました!  かぐや姫のためです。  私が必ず、持って参ります。  私が無事、持って参った暁には、何とぞ、  私の妻となってくだされ。  では!」 大納言さんは、スッと立ち上がると、引き止める間もなく、帰っていってしまった。 いいのかな? あの説明で胡椒が届くとは、到底、思えないけど。
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