藤原不比等

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藤原不比等

 さらにその翌日、藤原不比等(ふじわらのふひと)さんがやってきた。手に何か細長い風呂敷包みのようなものを持っている。 「私は、あなたを心から愛しく思ってます。  あなたは、私のような何の力もない  若輩者が…と思われるかもしれません。  強い権勢を誇る方々があなたのもとへ  いらっしゃってることも知っています。  ですが、それでも諦められないのです。  どうか、私を選んでいただけませんか?  慎ましい生活しかできないかもしれません。  それでも、私はあなたを、護り、慈しみ、  ささやかな幸せを大切にして生きていきたい  と思っています。  私と幸せな人生を送ってみませんか?」 やだ…… これ、きゅんとするやつ。 正輝さんがいなかったら、ふらっと行ってしまいそう。 やっぱり、人間、苦労した人の方が人の心が分かるのね。 「ですが、私はどなたの妻にもなるつもりは  ありませんので……」 私はやんわりと断る。 本当なら、夫がいますって言いたいところだけど、誰だ?て聞かれても答えられないから、言えないのが辛い。 なんでこうなっちゃったんだろう。 「ですが、姫は他の方々に何か望みを  言われたとか。  私には、お金はありませんが、姫のためなら、  どこまででも姫の欲しい物を取りに参ります。  どうか、私にも姫のために頑張る機会を  ください」 そんなことを言われても…… 「別に欲しいものもありませんので……」 私の唯一の希望は、元の時代に戻してくれること。 胡椒だって、あれば嬉しいけど、どうしても必要なわけじゃない。 私に必要なのは、正輝さんなんだから。 「先日、姫の琴の()の美しさにに、心  打ち震える思いを致しました。  願わくば、今一度お聴かせ願えませんか?」 琴くらいなら…… 私は、琴をかき鳴らす。 やっぱり、私は音楽を奏でている時が、一番落ち着くなぁ。 すると、不比等さんは風呂敷包みを開いた。 あれっ? もしかして、笛? 龍笛(りゅうてき)のような横笛を口元に当てると、不比等さんは、そのまま私の琴に合わせて奏で始めた。 すごい! よく通る音色。 フルートにもよく似たその音色は高音でよく通るのにどこか優しい。
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