仏の御石の鉢

2/2

271人が本棚に入れています
本棚に追加
/63ページ
 左大臣さまは、がっくりと肩を落とし、その包みを抱えて立ち上がる。 そのまますごすごと立ち去って行ったが、しばらくしてガシャン!と大きな音が外から聞こえてきた。 何!? 驚いた私は、周りを見渡すが、もちろん何もない。 外で何があったのかしら。 気にはなるものの、見に行くわけにもいかず、悶々と過ごしていた。  しばらくして、左大臣さまをお見送りに行ったおじいさんが戻ってきた。 「おじいさん、何かあったの?」 おじいさんは、苦笑いをこぼす。 「左大臣さまがな、うちを出た所で、抱えて  いらっしゃった鉢を叩き割ったんじゃ。  どうも大和の山寺にあった古い鉢を偽って  お持ちになられたようでな」 「まぁ!」 気に入らないからって、叩き割らなくても…… ま、大切な品でないことはこれで確定したわね。 「じゃが、左大臣さまは仰せじゃった。  それでも姫を好いてくださると。  ほんにありがたいことじゃ」 は!? 全然ありがたくないし。 きっとそろそろ還暦なんでしょ? 女あさりなんてみっともないこと止めればいいのに。  その日以降も左大臣さまから、何やらお歌を書いたと思われる(ふみ)は届いたけれど、私はお返事をすることなく、全て捨ててしまった。 正輝さん…… 正輝さんに会いたいよ。 どうしてこんな所へ来ちゃったの? どうしたら、元の時代に戻れる?
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

271人が本棚に入れています
本棚に追加