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左大臣さまは、がっくりと肩を落とし、その包みを抱えて立ち上がる。
そのまますごすごと立ち去って行ったが、しばらくしてガシャン!と大きな音が外から聞こえてきた。
何!?
驚いた私は、周りを見渡すが、もちろん何もない。
外で何があったのかしら。
気にはなるものの、見に行くわけにもいかず、悶々と過ごしていた。
しばらくして、左大臣さまをお見送りに行ったおじいさんが戻ってきた。
「おじいさん、何かあったの?」
おじいさんは、苦笑いをこぼす。
「左大臣さまがな、うちを出た所で、抱えて
いらっしゃった鉢を叩き割ったんじゃ。
どうも大和の山寺にあった古い鉢を偽って
お持ちになられたようでな」
「まぁ!」
気に入らないからって、叩き割らなくても……
ま、大切な品でないことはこれで確定したわね。
「じゃが、左大臣さまは仰せじゃった。
それでも姫を好いてくださると。
ほんにありがたいことじゃ」
は!?
全然ありがたくないし。
きっとそろそろ還暦なんでしょ?
女あさりなんてみっともないこと止めればいいのに。
その日以降も左大臣さまから、何やらお歌を書いたと思われる文は届いたけれど、私はお返事をすることなく、全て捨ててしまった。
正輝さん……
正輝さんに会いたいよ。
どうしてこんな所へ来ちゃったの?
どうしたら、元の時代に戻れる?
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