火鼠の皮衣

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「右大臣さま……  大変申し上げにくいのですが、それは  右大臣さまが、騙されていらっしゃいます。  その探した方が騙したのか、その方も  騙されたのかは存じ上げませんが、これは  綿です」 私がそう言うと、右大臣さまは立ち上がってこうおっしゃった。 「では、今ここで、燃やしてみようぞ」 右大臣さまは、縁側から(きざはし)を下りて庭に出ると、お付きの方に台所に行って火をもらってくるようにと命じられた。 「そんな、もったいない……」 私の言葉は、右大臣さまには届くことはなく…… 右大臣さまが届いた火をその布に近付けると、当然のごとく、全て燃え、灰となってしまった。 「そんな……」 右大臣さまは、ガックリと膝をついてうなだれる。 だから、言ったことじゃない。 「せっかくの美しい布でしたのに……  綿花はこの国では採れない珍しい植物  ですし、金糸まで織り込まれた高価な布  でしただけに、とても残念です」 私がそう言うと、右大臣さまは、ガックリと肩を落としてお帰りになられた。 綿かぁ…… 綿って、いつ日本に入ってくるんだろう。 未来では、綿より麻の方が高価なのに…… 未来に帰りたい。 正輝さんはどうしてるかな? 地震は大丈夫だったんだろうか? 私がいなくなって心配してくれてるかな?
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